この記事の連載

 脚本家・ドラマプロデューサーとして30年以上のキャリアを持つパク・ソンスさんが、『韓国式ストーリーのつくりかた』を上梓しました。

 ドラマにおいて主人公のキャラクターをどうつくるのか、倍速視聴、そして刺激に慣れた現代人の心をどう動かすのかなど、脚本家を目指す人へ向けた指南書となっていますが、普段から韓国ドラマを楽しんでいる人にとっては、制作の裏側を特別にのぞかせてもらえたような気分になれる一冊です。

 何よりも、ドラマへの熱い想いが詰まった本書より、韓国ドラマが世界で人気を集めるようになった理由について、一部を抜粋してご紹介します。

【後篇を読む】人気作家は脚本料が1話1000万越えも! 夢がある韓国ドラマ業界で進む「格差」とは


ドラマのグローバル化がヒットの構造を変えた

 コロナの時代を経て多くのことが変化したが、ドラマ産業はとくにドラマチックな変化を迎えた。

 パンデミック以前もすでに、tvNやJTBC(いずれも韓国のケーブルテレビ)は、品質や収益面で地上波をおびやかし、追い越していた。

 コロナ禍ではNetflixなどの海外ストリーミング配信サービスが人気を集め、ドラマ産業の中心に躍り出た。

 このように、チャンネルが多様になってゆく中で、ドラマ市場が大きく成長した反面、不確実性もより大きくなった。Netflixの投資・制作の方針が、韓国内のドラマ産業の方向性を牛耳るようになったためだ。

 2024年までJTBCとCJ(食品から生命工学、流通、今ではエンターテインメントまで幅広く手がける韓国大手企業のひとつ)はNetflixと、SBS(韓国の地上波放送局)はDisney+と四半期契約を結んでおり、期限つきの同盟関係にあった。

 国内の放送局が制作費を確保し、収益を得るためには、グローバル市場で成果をあげなければならない。つまり、海外ストリーミング配信サービスとの協力関係を追求するしかないのが現実だ。そういった中でWATCHA、wavveのような韓国国内のストリーミング配信サービスは、資本を食い荒らされている状態になり、未来が不透明になっている。このように、海外のストリーミング配信は、韓国でのドラマ制作の構造にも大きな変革を起こした。

・放送前にすべて撮影する、事前制作が定着しつつある。

・シリーズものの話数や1話あたりの時間のバリエーションが増えた。ミニシリーズの話数が6話から20話まで、1話あたりの時間も40分から70分までと多様になった。

・ターゲット層が多様化し、細分化された。

・実験的でマイナーな素材も可能になった。たとえば、国内地上波はクィアの素材を避けるが、海外ストリーミング配信サービスではその門戸が開かれている。ローカルの現実に従うか、グローバルを志向するかによって、素材選択の基準が変わってくる。

・企画段階から地上波を排除し、海外ストリーミング配信サービスやグローバル市場に狙いを定めた作品が増えている。ドラマ市場の波が、地上波からストリーミング配信サービス中心へと変わったということは、ターゲットが全世界のオーディエンスへ拡張したという意味だ。グローバル視聴者を念頭に置いて企画する時代だ。

2025.06.17(火)
文=パク・ソンス
翻訳=松原佳澄