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いい作品を生み出すがゆえの葛藤とは?

 こうした変化は新人作家に新しいチャンスをもたらした。

 昔の韓国のドラマは、地上波、全16話、1話あたり70分。放送と制作と台本執筆が同時に進行するシステムだった。これでは、どうしても成功経験のある人気作家が有利だった。

 しかしストリーミング配信サービスは、新人作家も挑戦できる環境をつくり出した。全6話などで、新人ならではの果敢でカラーのあるタッチで、特定の視聴者をターゲットにして、地上波の慣習にしばられない、ドラマの世界を多様にするチャンスが生まれたのだ。

 このような変化は地上波ドラマにも影響を及ぼしている。

 海外ストリーミング配信サービスは、一見多様な作品をつくれる機会に見えるが、結局は彼らが望む方向に振り回される、従属構造に変わっているという憂慮もある。

 作家や俳優は、自分の作品がNetflixで公開されることを望む。

 地上波とは比較にならないほど巨額な制作費が使え、作品のクオリティーを高められるからだ。あわせて、全世界で作家や俳優の名が広く知られる機会となるため、「Netflix」で配信されることが、作品決定の条件となるケースもある。

 しかし、『イカゲーム』、『ザ・グローリー ~輝かしき復讐~』のような「Netflixオリジナル」である場合、著作権(IP)をNetflixに譲渡しなければならない。

 作家の著作権ももちろんNetflixオリジナルに帰属する。

 海外ストリーミング配信サービスが制作費や作家の原稿料を手厚くしてくれるとはいえ、作家として、著作権の追加収益をすべて譲渡しなければならず、報酬は一度きりというのは問題があるだろう。

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パク・ソンス

「このドラマの前後で韓国ドラマ史は分けられる」といわれるドラマ『勝手にしやがれ』(2002)で百想芸術大賞、韓国放送大賞、韓国放送プロデューサー賞など、名だたる賞を受賞。このドラマから「ドラマ廃人」という新語も生まれる。主な演出作品に、『おいしいプロポーズ』(2001)、『No Limit~地面にヘディング~』(2009)などがある。演出家として、多くの新人脚本家とともにドラマを作ってきた。2014年から2017年までMBCドラマ局長を務めながら新人賞受賞作品をドラマ化し、新人脚本家の道に光をあてると同時に、ドラマの新境地を開く。ドラマの企画や演出経験をもとに、韓国放送作家協会教育院、韓国芸術総合学校、中央大学(韓国の大学)などでドラマの講義を行う。

韓国式ストーリーのつくりかた

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次の話を読む人気作家は脚本料が1話1000万円超えも! 夢がある韓国ドラマ業界で進む「格差」とは

2025.06.17(火)
文=パク・ソンス
翻訳=松原佳澄