トゥルルルルル! 鳴り止まない電話

トゥルルルルル!! トゥルルルルル!!
レジにあったお店の電話が鳴りました。
トゥルルルルル!! トゥルルルルル!!
トゥルルルルル!! トゥルルルルル!!
鳴り止まない電話。
無視できない状況にOさんがおずおずとレジに向かうと、女の方を見つめたままゆっくりと受話器を取ったそうです。
「はい、もしもし…………う、うわぁぁぁ!!」
Oさんが突然受話器を投げ捨て、レジ上の小物を引き倒しながらその場に尻餅をつきました。
「おーい、何を騒いでいるの~?」
キッチンの奥から社員さんの心配する声が聞こえましたが、Oさんは茫然自失としていたそうです。
「うわっ!! おいっ!!」
ふいに男子学生の一人が窓を向いて叫んだのでそちらを見ると、あの女は忽然と姿を消していました。
ドタバタと席から離れてOさんの方に駆け寄る一同。
「だ、大丈夫っすか、お兄さん……」
「Oさん、どうしたんですか……?」
「行けないって……」
「はい?」
「『私、人がいっぱいいるところは嫌いだから、行けないんです』って。あと、『あ、そうそう、病院着ってこんな感じで良かったですよねぇ?』って言ってた」
◆◆◆
結局、大学生のお客さんたちは日が昇るまで、窓から離れた席に移動してお店に留まり続け、TとOさんは朝日の中、血の気の引いた表情で車に乗り込む彼らの背中を見送ったそうです。
それ以降あの女が店に現れることはありませんでしたが、しばらくしてTさんはそのバイトを辞めたそうです。
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禍話
2025.05.04(日)
文=むくろ幽介