この記事の連載

 生配信サービス「TwitCasting」で2016年から放送されてきた怪談チャンネル「禍話(まがばなし)」。多彩な恐怖が矢継ぎ早に飛び出すその内容が2019年頃からホラーマニアたちの心を掴み、放送で語られた話をWEB上で書き起こす“リライトブーム”を引き起こしたことでも知られています。

 北九州で書店員をしている語り手のかぁなっきさん、そしてその後輩であり映画ライターの加藤よしきさんが語る不気味な怪談たちから、今回は“深夜のファミレス”で起きた恐怖の一夜をご紹介――。

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深夜のファミレスは“何かからの避難所”

 コロナ禍を経た今ではめっきり見なくなってしまいましたが、以前は24時間開いているファミレスが結構あったのを覚えているでしょうか。

 家族連れや友達連れが多く足を運び、ボックス席でワイワイと日々の出来事を話しながら食事を楽しむ。ファミレスといえばそんな和やかな空間というイメージが強いですが、一度深夜帯のファミレスに足を運んだことのある人ならば、日中とは少し異なる独特の空気感があることをご存知のことでしょう。

 夜に家いられない事情を持ったさまざまな人をぽつりぽつりと引き寄せる真夜中の明かり。深夜のファミレスには“何かからの避難所”としての役割もあるように思えます。

 この話はそんな役割を担ったとあるファミレスでの出来事です。

◆◆◆

 当時、奨学金で大学に通っていた女子大生のTさんは、実家があまり裕福ではなかったこともあり、普段遊ぶためのお金や生活費は家族に迷惑をかけずに手に入れようと、アルバイトをすることにしました。

 ゆったりとできそうな家庭教師やおしゃれなカフェでのバイトを夢見ていたそうですが、人付き合いがあまり得意ではなかったことや、そもそも彼女の通っている地方の大学にはそういったおしゃれなカフェがなかったこともあって、結局は学生寮から自転車で20分くらいのところにある、ロードサイドのファミレスに落ち着いたそうです。

 初めの頃はうまくできるか緊張していたTさんでしたが、やってみると作業はそこまで複雑ではなく、先輩の男性・Oさんとも飄々とした性格で波長が合いました。なにより、人と関わる機会の少ない深夜帯を選んでシフトを入れていたことが、自分のリズムと合っていたようです。

 その日も深夜にシフトを入れていたTさん。

「大学生なのにこんな深夜によく働けるよねぇ」

「翌日に朝早い講義がない日にシフト入れているだけですよ。あと夜間手当もつきますし」

「親から仕送りあんまもらってないんでしょ? マジで偉いよ。今時珍しいちゃんとした大学生だよ、本当。それに比べて、俺なんて社会人にもなってフリーターで、このままここで社員になっちゃおうか迷っているくらいボーッと生きていて……」

「勝手に落ち込まないでくださいよ」

 ポツポツと居たお客さんも全てはけ、店にはキッチン担当の社員さん、ホールにはTさんと先輩のOさんしかいなかったそうです。

2025.05.04(日)
文=むくろ幽介