聴こえてきた「廃病院」「千羽鶴」……

「大学生?」
「はい、とりあえずドリンクバー4人分です。……もしかしたらウチの大学の学生かもしれないですね」
「なに、知り合いとかいたの?」
「いえ。でも、この辺りに大学ほかにないですし。まあ、学部違うと思いますけど。なんか肝試し帰りみたいでしたよ」
「肝試しねぇ~……じゃあ、あの山の向こうの病院かな」
「知っている場所なんですか?」
「長くここにいるとたまーに肝試し帰りの人が来るんだよ」
Oさんが教えてくれたのは、ファミレスから車で10分ほど行ったところにあるという廃病院の話でした。
そこは10年以上前に廃業した病院だそうで、なかなか解体が進んでいないことをいいことに、時たま学生たちが心霊スポットとして肝試しに訪れるのだそうです。

「心霊スポット……」
Tさんは客席の4人組を横目で眺めました。来店時は緊張気味でしたが、今はホッとしたのか思い出話に花を咲かせながら笑顔で盛り上がっているようでした。
「じゃあ、廃業するほどの事件とかがあったんですか?」
「全然、何にもない。ただの廃病院だよ」
「でも、枯れていない菊の花とか千羽鶴があったとか言っていましたけど……」
「病院だから千羽鶴くらいあるんじゃない。菊の花もきっと噂を信じた人が置いたんだよ。ああいう廃墟って、雰囲気があれば怖い事実がなかったとしても皆寄って来るし、いつの間にか怖い噂ができちゃうものなんだよ」
その場では何も思わずに受け取ったこの言葉。
けれどTさんは、この直後に起きた出来事を思い返す度に、このOさんの言葉について何度も、何度も考えてしまうのだそうです。
(後篇に続く)
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禍話
2025.05.04(日)
文=むくろ幽介