この記事の連載

 「TwitCasting」という生配信サービスで2016年から新作怪談を語り続けているチャンネル「禍話(まがばなし)」。北九州で書店員をしている語り手のかぁなっきさんと、聞き手役の映画ライター・加藤よしきさんの雑談風トークから繰り出される怪談は、思わず身を縮めてしまうほど恐ろしいものばかり。

 今回はそんな「禍話」の怪談の中から、かぁなっきさんの知人であり、彼に怪談を届けてくれる“甘味さん”こと廃墟探訪マニアの女性・Kさんが体験した、とある地方の集合住宅での出来事をお送りします――。

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廃墟で出会った男女3人

 昼下がりの廃墟に響いた、コォォーーンという奇妙な物音。

 Kさんは息を潜めて耳を澄ませました。

 何かが倒れたのか……? いや、これは誰かが何かを蹴ったような物音だ。

 3階に上がるとその予想は的中していました。

「何もないねぇ~」

 コォォーーン……コロコロコロ……。

「だなぁ~」

 暇を持て余した様子で足元の空き缶を蹴っている女性と、辺りをキョロキョロとする彼氏と思しき男性。そして2人をスマホで撮影している男性が廊下の向こうに見えたのです。

 なんだ先客か……見たところ大学生くらいかな——心の中でため息をついたKさん。自分だけの特別な時間を荒らされた、そんな気がしたと言います。

 ふと、彼氏の方と目が合いました。

「おい、人いる」

「え? あ、本当だ」

 カメラマンの男性が当たり前のようにこちらにカメラを向けてきたことに少しムッとしましたが、Kさんは軽く会釈をすると黙って彼らの横を通り過ぎようとしました。

「肝試しですか?」

「え、まあ、そんなところです」

「へぇ~。珍しいっすよね、女性ひとりって。遅くまでいるんすか? 何なら送っていきますよ」

 善意で言ってくれているのかもしれないけど、放っておいてほしいんだよな……独りごちながら、Kさんは「はい」とも「いいえ」ともつかない曖昧な感じに首を曲げ、形だけの“受け取り”を示すと、そそくさと上の階に上がりました。

2025.05.05(月)
文=むくろ幽介