この記事の連載
ポツンと置いてあった木の椅子

「何、どうしたの!?」
2人はKさんの呼びかけも聞かずに走り去っていくので、なんとか立ち上がってあとを追いかけたそうです。幸い、慌てる女の子に呼び止められていたことで間に合ったKさんは、改めて何があったのか2人に問いただしました。
「人が……居たんです、上の階に」
「音が、音がしたっぽい部屋に、入ろうとしたら、出、出てきたんです……」
「……誰が?」
「知らないっすよ! 知らないおじさん、木の椅子引きずって出てきたんですって!」
“ガタガタンッ!!”
「目が合ったら『もう終わりました』って、言われて……」
結局、大学生たちは「すみません! もう帰るんで! すみません!」と逃げるように車に乗り込んで帰っていったそうです。
不意に戻ってきた山の静寂。
どうしようもない恐怖はすでに感じていたはずです。
◆◆◆
「それなのにさ、私、なぜか一目だけその部屋を覗きたくなったの。でも、部屋の手前まで行ったところでやめて帰ったんだ」
部屋の手前にポツンと置いてあった木の椅子。
「あそこで誰かが首を吊っていた。多分、女の人が。部屋の手前でそう感じたの。そういうニュースは見つけられなかったけどね。でも、それより私が怖かったのは、あのおじさんの言葉だよ」
『もう終わりました』
「あそこ定期的に“過去に起きた女の首吊り”が起きるんじゃない? それをおじさんとか、噂の子どもとか、いろんな幽霊がいつも見にきているとか……だから私も見たくなったのかも。私の想像だけどね」
Kさんはのちに、かぁなっきさんにそう言ったそうです。
» 怪談特集を見る

禍話
2025.05.05(月)
文=むくろ幽介