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廃墟から聴こえてきた“音”

 万が一のことがあってはいけないと、Kさんは彼女を連れて1階まで降りることを提案したそうです。

 トトッ、トトトッ、トトッ。

 女の子を支えながら、おぼつかない足取りで階段を降る一同。

「さっきまで何ともなかったんですけど、息が苦しくなって急に意識が……」

「気にしないで。お水とかこまめに摂らないと、急な脱水症状とかもありますから。早く降りましょう」

 なんとか1階まで降りたKさんは、彼らが乗って来た車に女の子を座らせ、ひとまず胸をなで下ろしたそうです。

「マジ、助かりました……」

「本当にすみません……でも、階段降りている途中からフッと楽になったので、もう大丈夫だと思います。ありがとうございます」

「無理しないで早く帰った方がいいですよ。日も暮れてきましたし」

「お姉さんはどうするんですか?」

「私も、もう少しで帰り——」

 ガタガタンッ!!

 それは木製の椅子が倒れるような音でした。

「……え……?」

「…………建物からだよな?」

「…………」

 普通ならばそんなことはしないでしょう。けれど長年不思議な気配を逃すまいと探索をしてきたKさんの足は、気がつくと建物の方に向いていたそうです。

「ちょっ、お姉さん! 今降りてきたんですよ!」

 あとを追いかけてきた男の子2人と共に、Kさんは再び集合住宅の中に戻ることになったのです。

2025.05.05(月)
文=むくろ幽介