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Tさんが駐車場に目を向けると……

 駐車場の照明ポールに照らされた、どこにでもありそうな黒いコンパクトカー。

 その助手席に人が乗っていたのです。

 あれ、1人残っていたのかな……。

 確かめるように目をこらすと、黒い髪の毛をした、白っぽい服を着た女と思しき人影がじっと前を向いて座っていました。

「病院ってことはそこで亡くなる人は定期的に出るわけで、それが毎回怖いお化けになるものですかねぇ~……」

「だから、何か違法な治療していたとか、そう言うことじゃない?」

「違法な治療って……リアリティねぇこと言うなぁ」

「ですよねぇ~」

 大学生たちが車に誰か残してきているようには見えませんでした。

 急に恐ろしくなったTさんは、目線を床に下げてそそくさとOさんのいる待機場所に引き上げたそうです。

「モップ終わりました」

「ちゃんとかけただろうなぁ~」

「はい」

「……どうしたの?」

「あの、先輩……駐車場の車に、誰か乗っていません?」

「駐車場?」

 Oさんは少しフロアに身を乗り出しながら目を凝らしました。

「……あ、確かに誰か座っている」

「そうなんですよ。こんなこと言うとあれかもしれないですけど、おかしくないですか?」

「……え、あれ、病院着か?」

「えっ」

 思わず振り返ったTさん。Oさんと同じように目をこらすと、確かに女の着ている服は妙に薄っぺらで、外に出るときに着るような服には見えませんでした。

「……ちょっと聞いてみるか」

「え、先輩!」

 戸惑って後を追うTさんをよそに、Oさんは4人組のお客さんの方へ歩いていってしまいました。

「あの、お客様ちょっとよろしいでしょうか」

「え、はい。なんですか?」

「つかぬ事をお聞きするのですが、お客様は4名様でよろしかったでしょうか?」

「……は? 4人ですけど」

「あの、駐車場の方にもう1人お連れ様が——」

「キャアアア! 先輩あれ!!」

 Oさんの言葉を遮るように視線を駐車場に向けた女の子の1人が悲鳴をあげ、その場にいた全員が彼女と同じ方向を見ました。

2025.05.04(日)
文=むくろ幽介