町の本屋でまだまだ修行中
フェア用の書棚は、アクリル製で見通しがよく、なかなかいい感じ。訪問当時、ビジネス書のエリアで、お仕事本フェアを実施中。文藝春秋からの持ち込み企画とのことで、文春文庫のお仕事小説、職業ルポルタージュなどのフェアを展開していた。職業の範囲も、すし職人や模型メーカー、納棺師からOLまで幅広い。柴田さんは入社3年目、独自のフェアを仕掛けるところには至っていないけれど、文庫については、この町で売れそうな作品の目星も付いてきた。品川インターシティで働く、カフェやマッサージ店のスタッフに選書して推薦文を書いてもらうフェアの際は、企画書を持ってお店に飛び込んでお願いしたのだそうだ。
新聞書評の棚も柴田さんが担当している。毎週、主要全国紙と週刊誌の切り抜きを貼り、店内在庫から選んで陳列する。今週の書評、先週の書評、2週前と、3週間分が並び、在庫やオススメ度合いに応じて、平積み(棚の手前に積む)、面出し(正面を向けて陳列)、棚差し(普通に書棚に並べる)と、新聞書評からの抜き書きをPOPにする。ていねいでわかりやすく、ボリュームのある陳列で、つい手に取ってみたくなる。主要各紙の書評はそれぞれ棚1本のスペースを取っており、新聞ごとの特徴もわかる。本日の新聞広告という選書もいい、広告を見たときに気になった本の現物をチェックできるのはうれしい。
最近、文芸書の担当も持つようになった柴田さん、「まだまだ文芸書は全然わからなくて……、まずは自分の言葉でPOPを書けるようになるのが目標」というが、毎週のこの新聞書評コーナー作りは、選書の目も、陳列の技術も、POPの着眼点も鍛えるいい機会になるのではないか。もちろん、読者にとっても、この3週間の新聞書評を概観できるこのコーナーはありがたい。
【CREA WEB読者にオススメ】
そんな柴田真里江さんのオススメは、最近続けて読んでいるという創元推理文庫から、加納朋子さんの『ななつのこ』。読んでいるとどこか懐かしい気持ちにさせられる“人の死なない”ミステリー。手紙文で構成された短編集という仕掛けも面白い。
学生時代に、創元推理文庫に収録の、書店を舞台にしたミステリーを読んで、書店員もいいなと思ったという柴田さん、取材を終えて、「これから配達なんです」と隣接するオフィスビルに向かった。空中楼閣のような都市景観にあっても、常連さんの集まる町の本屋さんとエプロン姿の御用聞きが心強く思われた。
くまざわ書店品川店
所在地 東京都港区港南2-15-2 品川インターシティ2階
営業時間 平日 9:00~22:00、土日祝 11:00~19:00
URL http://www.kumabook.net/
小寺 律 (こでら りつ)
本と本屋さんと、お茶とお菓子(時々手作り)を愛する東京在住の会社員。天気がいい週末には自転車で本屋さん巡りをするのが趣味といえば趣味。読書は雑読派、好きな作家は、小川洋子さん、宮下奈都さん。
Column
週末の旅は本屋さん
新幹線や飛行機に乗らなくても、いとも簡単に未知のワンダーランドへと飛んでいける場所がある。それは書店。そこでは、素晴らしい知的興奮に満ちた体験があなたを待つ。さすらいの書店マニア・小寺律さんが、百花繚乱の個性を放つ注目の本屋さんへとナビゲートします!
2014.04.26(土)
文・撮影=小寺律