「西園寺さんは家事をしない」(TBS)にて、一躍ブレイクを果たした松本若菜さん。10月17日放送開始のドラマ「わたしの宝物」(フジテレビ)でも主演を務める松本若菜さんのキャリアと魅力とは。(前後編の後編/前編を読む)
「とにかくオファーが途切れない」意外過ぎる“俳優遍歴”
「やんごとなき一族」の美保子の役はまさに「昼ドラ」的演技。過激に振り切っていたので視聴者を強く惹きつけましたが、一度そういう役を経験すると、その後も同様の役回りを期待されてしまうため、似たような役が続きがちです。しかし、その後に出演したドラマでは、美保子の印象を完全に払拭するかのような、正反対の役ばかりでした。そのギャップによって、視聴者は役者としての振り幅を知ることになります。
「ファーストペンギン!」では髪の毛をピチッと整えた農林水産省の職員・静役。落ち着いた声音で淡々と話をするポーカーフェイスの女性で、一見とっつきにくい印象を抱かせつつも、男社会の“漁業の世界”で孤軍奮闘する主人公・和佳(奈緒)に共感し、陰ながら後押しする重要な役でした。
「夕暮れに、手をつなぐ」では、レコード会社で新人の発掘から、教育、デビューに至るまでの面倒を見るA&R部門の仕事をする磯部真紀子(通称「イソベマキ」)を好演。こちらは豪快で猪突猛進、自己中心的な部分もあるキャラの強い役で、西園寺さん役に通ずる部分が。「西園寺さん〜」と同じ火10ドラマ枠ということもあり、適性を見られていたのかもしれません。
月9「ONE DAY〜聖夜のから騒ぎ〜」では神奈川県警・刑事部捜査一課の主任警部補・狩宮カレン役。キャリアアップのためなら手段を選ばない剛腕さも見せつつ、最終的に自分の信念のために行動するクールな刑事でした。
そして2クール連続の同枠出演を果たした「君が心をくれたから」では、あの世からやってきた案内人、千秋というミステリアスな役に挑戦。実は主人公の亡くなった母であるという難しい役どころでした。
まず“ここまでオファーが途切れない”という事実からしてすごいのですが、どれも彼女を一躍有名にした“松本劇場”を感じさせない、たしかな演技力が光る存在感のある役ばかり。誇張した「動」の演技で物語を盛り上げることも大事ですが、抑えた「静」の演技ができることも役者としては重要だということを改めて思い知らされました。
実は「やんごとなき一族」でのブレイク前は、「麒麟がくる」で演じた於大の方のように、品の良さが際立つ「静」の演技に定評がある俳優だった彼女。悪目立ちせずに作品に溶け込むような「静」の芝居でも埋もれることがなく、人々を惹きつける役者としての底力を、美保子役の以後もいろんな作品で見せつけてくれたのです。
2024.10.17(木)
文=綿貫大介