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“軽食スタンドのおばさん”に集まった賞賛

――ひとりで軽食スタンドを切り盛りしているマンジュおばさんのキャラクターが魅力的でした。特に、マンジュおばさんがプールに対して「ちゃんとした女性であれという教えはフロード(=詐欺)である」ということを言っているシーンは衝撃的でした。このシーンは、日本で見ている我々にも響きますが、インドではどのような反響があったのでしょうか?

 そのセリフはインドでも反応のよかった部分でした。この映画は、比較的、小規模な作品ではあったんですけど、劇場では100日間にわたって上映されていました。このような作品としては、かなりの好成績であったと言えると思います。

 その中でも、特に反響があったのは、マンジュおばさんのキャラクターでした。ご指摘いただいた「ちゃんとした女性=グッドガール」の概念について語るシーンは、革命的ですよね。でも、マンジュおばさん自身が革命的なキャラクターであるからこそ、成り立ったところはあるかもしれません。

 このセリフの裏にあるのは、結局、男性によって女性は縛られているということを指摘しているわけです。今回、この映画でマンジュおばさんを演じてくれたチャヤ・カダムさんが、この映画で最も称賛を受けた俳優になりました。

 このようなキャラクターもアイデアも、インドでは受け入れることのできる準備があると言ってもいいと思います。マンジュおばさんのようなキャラクターが皆さんの支持を受けたこと、みなさんがこの役柄を楽しんでくれたということが、何よりの証だと思います。

――この映画は、2001年のインドを舞台にしていますが、当時のインドでは、花嫁を取り違えるようなことがあったり、プールが家事に関しては完璧に教えられているのに、自分の家の住所は言えなかったりするというような状況は本当にあったのでしょうか?

 当時のインドでは、映画の中のふたりの花嫁のように、移動中もずっとベールを被っていないといけないということではなかったと思います。でも、実際にこうした取り違えというのは結構、起きていたんですね。ただ、映画の中のジャヤのように、今の生活から逃げるために、取り違えを利用するというようなことは起きていません。とはいえ、私も実際に、二件くらいはそのようなことが起きたという話を聞きました。後篇につづく

キラン・ラオ

1973年ハイデラバード生まれ。19歳でムンバイに移住。ソフィア女子大学を卒業後、ジャミア・ミリア・イスラミア大学で修士号取得。2010年の『ムンバイ・ダイアリーズ』で監督デビュー。

『花嫁はどこへ?』
10月4日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネ・リーブル池袋他全国公開

<STORY>
2001年、とあるインドの村。プールとジャヤ、結婚式を終えた2人の花嫁は同じ満員列車に乗って花婿の家に向かっていた。だが、たまたま同じ赤いベールで顔が隠れていたことから、プールの夫のディーパクが勘違いして、プールではなくジャヤを連れ帰ってしまう。
置き去りにされたプールは内気で従順。何事もディーパクに頼りきりで彼の家の住所も電話番号もわからない。そんな彼女をみて、屋台の女主人が手を差し伸べる。
一方、聡明で強情なジャヤはディーパクの家族に、なぜか夫と自分の名前を偽って告げる。果たして、2人の予想外の人生のゆくえは──?

<STAFF&CAST>
監督・プロデューサー:キラン・ラオ
原案:ビプラブ・ゴースワーミー
脚本・ダイアログ:スネーハー・デサイ
追加ダイアログ:ディヴィヤーニディ・シャルマー
プロデューサー:アーミル・カーン、ジョーティー・デーシュパーンデー
音楽:ラーム・サンパト
撮影監督:ヴィ―カス・ノゥラカー
出演:ニターンシー・ゴーエル、プラティバー・ランター、スパルシュ・シュリーワースタウ、ラヴィ・キシャン、チャヤ・カダム
2024年|インド|ヒンディー語|124分|スコープ|カラー|5.1ch|原題Laapataa Ladies|日本語字幕 福永詩乃
応援:インド大使館
配給:松竹
© Aamir Khan Films LLP 2024
https://movies.shochiku.co.jp/lostladies/

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2024.10.06(日)
文=西森路代