人と大地との生活の記録をアートから感じる

 雄大な秋山郷の自然も印象深いが、土地に住む人々の記録にもハッとさせられるものがある。

 松尾高弘《記憶のプール》は1971年の夏の赤沢小学校の様子を写したもの。水が豊かな土地でありながら、プールのない学校のために大人たちが力を合わせて作った土のプール。現代では不便と一刀両断されそうな状況の中でも知恵と想像力を振り絞ることで、活き活きとした笑顔が生まれる。

 現れては消える豊かな情景を見ていると、秋山郷の在りし日の姿だけでなく、現代社会で失われつつある感覚を取り戻すような気持ちになる。

 学校に直接かかわるものだけでなく、秋山郷に住む人々の記録についても校内には数多く展示されている。その記録から浮かび上がるものは、助け合いの精神や、信仰心といった共同体のありようだ。これもまた、人間の生活の力と呼べるものだろう。

2024.10.05(土)
文・写真=CREA編集部