山と人と。行き来の中で育まれる文化と信仰

 2階に上がるとぽっかりと空いた《ヤマノクチ》が待ち受けている。

 人々が暮らす領域から少し離れ、まるで、アケヤマの中に一歩、二歩と足を踏み入れていくかのような錯覚を覚える。

 山に住むということは山と向き合うということ。雪が深いことで医者や僧侶が訪れることができないことが多い秋山郷では、信仰や土着文化というべきか、この土地ならではの方法で病人や亡くなった人と対話してきた。

 内田聖良の《カマガミサマたちのお茶会:信仰の家のおはなし》はそんな秋山郷での日々の営みを基につくられた作品だ。システム化され、無機質になりつつある現代の人との関わりを再考させられるような、そんな空間がそこには広がっている。

 《ヤマノクチ》から分け入っていくと白い洞窟のような建物が鎮座している。永沢碧衣の《山の肚》だ。

 東北の狩猟・マタギ文化に関わりながら制作を続ける永沢はマタギたちや山の動植物との間に内在した「語られざる物語」を可視化していく。

 白い洞窟はマタギたちが山の休憩地として使用していた「リュウ」と呼ばれる洞窟がモチーフ。なかにはマタギの息遣いと、洞窟壁画を思わせる山の景色が描かれている。山の胎内に入り込んだような、不思議な安心感が、人間と自然との境界について考えるきっかけを与えてくれる。

2024.10.05(土)
文・写真=CREA編集部