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一生懸命やっていても、昔の自分と比べてしまう

――前篇のインタビューでは、架の「満たされてるからこそ生まれてきた悩み」に言及されたところがありました。奈緒さんも駆け出しの頃と今を比較して、似たような悩みが生まれたりもしましたか?

 あります。一時期、自分のことを「何でこんなに弱くなっちゃったんだろう」と思って悩んでいたときがありました。以前の自分だと何でも前のめりにいろいろなことを決めて猪突猛進になれていたのに、今は違うので「何でこんなに悩むようになっているんだろう」って。だから当時の18~19歳くらいの自分に、今の悩みを相談したいと思った時期があったんです。…という話を仲良しの映画の衣装さんに話したんですね。

 そうしたら「奈緒ちゃんがあのときに感じていた悩みと今の悩みは違うから、今の奈緒ちゃんがあのときの奈緒ちゃんに相談しても、答えが出ないんだよ」と言われて、ハッとしました。「この悩みは今の私が答えを探すしかないんだ」と、そのときに感じたんです。自分が憧れていた、思ってたところにたどり着いたときに、それですべてが丸く終わるわけじゃないんですよね。その後も続いていくから、今度は新しい悩みがそこで生まれて、またそれをどうやって乗り越えていくか…みたいなことの繰り返しなんだな、ずっと続くんだな、というのはすごく感じましたね。

――そのときはお仕事の悩みでしたか? 人生にまつわることでしたか?

 お仕事の悩みが、そのときはありました。俳優になりたての頃は、どうやったら自分が選んでもらえるだろうということを考えたり、そういう自分になりたいという目標がはっきりしていたので、そこに向かって真っ直ぐに、とにかくがむしゃらに走っていたんです。

 それから数年たって、いろいろなお仕事をいただけるようになり始めたときに、自分のキャパシティーが追いつかなかったので、こんなにやりたいことだったのに「100%でやれたんだろうか」と自分への罪悪感みたいなものが生まれてしまって…。準備する時間もだんだん減ってきたり、「これでいいのかな」という焦燥感がありました。一生懸命やっているんだけど、やっぱり昔と比べてしまうんです。「あのときだったら、もっと時間があったら、ここまでできたのに」と求めてしまって。でもそれは違うんだと、今は思えるようになりましたね。

――その都度悩んで、考えて、強くなって、視界もどんどん開けて広がっている。今のお話からそんな印象も受けました。

 本当に広がっているなと思います。だから、毎回壁が出てきたときに、その壁を越えるか、越えずに現状を維持するか、という選択肢が生まれていると思うんです。毎回「どうしよう」と悩むんですよね。現状を維持する幸せもあるだろうなと思うし、でも今自分が感じている壁を越えた先に、自分がまだ知らない幸せがあることは、何回も経験しているからわかっているので。新しい幸せを取りに行くか、今の幸せをしばらくは感じていたいかみたいなのは、毎回壁を感じるときに自問自答しています。

――なるほど。今回の取材を通して、奈緒さんが日々内観されてるから、こんなにすっと言葉が出てくるのか!と感じました。

 わー(笑)。わたし、一人で考えるのがすごく好きなんです。ちょっとした時間にも「今のってこうだったな」とか考え始めてしまうので。実は、それを今はやめたいんですよ(笑)。ある方に「ずっと思考してる人の体になっているね」と指摘されたので、今はなるべく考えない時間も作ろうと新たな努力をしています!

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奈緒(なお)

1995年2月10日生まれ、福岡県出身。2013年俳優デビューし、NHK連続テレビ小説『半分、青い』の親友役で注目を浴びる。2019年に『終わりのない』で初舞台、同年『ハルカの陶』で映画初主演を飾る。主な出演作に、ドラマ『ファーストペンギン!』、『あなたがしてくれなくても』『春になったら』、映画『マイ・ブロークン・マリコ』、『先生の白い嘘』など。公開待機作に主演ドラマ『あのクズを殴ってやりたいんだ』(TBS系10月期火曜22:00~)など。

映画『傲慢と善良』

2024年9月27日(金)全国公開
監督:萩原健太郎
原作:辻村深月
脚本:清水友佳子
キャスト:藤ヶ谷太輔、奈緒、倉悠貴、桜庭ななみ、菊池亜希子、前田美波里、宮崎美子、西田尚美
配給:アスミック・エース
©2024映画「傲慢と善良」製作委員会
https://gomantozenryo.asmik-ace.co.jp/

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2024.09.26(木)
文=赤山恭子
写真=佐藤 亘
ヘアメイク=masaki
スタイリスト=岡本純子