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 清廉潔白な人物から共感に遠く及ばない人物まで、どんな作品・役柄でも自在に乗りこなしてしまう俳優の奈緒さん。相次ぐ出演作品の中でも、情報解禁時から話題を集めていたのが藤ヶ谷太輔さんとW主演を務める映画『傲慢と善良』の坂庭真実役。真実という危うさをはらんだ人物に丁寧に向き合い、生身の人間としてスクリーンに誕生させた奈緒さんに、お話を伺いました。

映画『傲慢と善良』あらすじ

「2023年、最も売れた小説」として知られる辻村深月さんの原作を映画化した同作は、マッチングアプリで出会い交際を始めた、架と真実の物語。婚約直後に真実が突然失踪し、彼女を探すうちに架は真実のパンドラの箱を開けていくことになる。架と真実の恋愛のゆくえ、真実に一体何があったのか…。ミステリーの要素を主軸に置きながら、人間のうごめく情念とそのドラマティックさの濃淡を堪能できる。


婚約直後に謎の失踪…真美を演じるうえで大切にしたこと

――『傲慢と善良』では、親の敷いたレールの上で善良に生きてきたけれど、架との婚約直後に謎の失踪を遂げる真実を演じました。取り組む上で、大事にしたことは何でしたか?

 真実を演じるうえで大切にしようと思ったことは、彼女の行動が「善か? 悪か?」みたいなところを、あまり自分でタッチしないようにしようと心がけていました。もしも悪だと思ってしまうと、どこかで、そう見えないようにとか、あるいはそう見せようという思考が生まれてしまうと思ったので。そこはフラットに、なぜ彼女がそう思うのか、なぜそういう行動をしたのかを理解することだけに力を注ぎたいなと思ったんです。判断しないことに気をつけていました。

――真実はどんな人物だと奈緒さんは感じていたんでしょう?

 怖がりで大胆な人だな、と思います。人からどう見られるかということをすごく気にしてずっと怖がっていますし、婚約者の架くんからもどう見られているのか、彼からの評価を気にしているところがあって。人からどう見られてるかというイメージと、自分がどうしたいかというところの間で、すごく苦しんでる人に思えました。

 それでいて行動とかはすごく大胆なんですよね、パワーとか熱量もすごく持っている人で。彼女が本当の自分を見つける、みたいなことが最後のゴールになればいいなというのが、私の中では少しありました。

藤ヶ谷太輔さん演じる架に感じる「愛おしさ」

――真実のお相手・架のことはどうご覧になっていましたか?

 架くんはすごくいい人、魅力的な人だなと思います。とにかく性格がいいというか、計算高くない人なので、自分が不器用なことにもあまり気づいていなさそうな…(笑)。ちょっと抜けている部分も、架くんの魅力だと思います。

 人生の中で人から好かれることも多かっただろうし、そして地位や築き上げてきたものもあるから、周りからするとあまり苦労せずに生きてきた人に見えるかもしれない。けど「満たされているからこそ生まれてきた悩み」みたいなものが架くんの中にはあるんじゃないかなと思うんです。

 自分自身がどこに向かっているのかとか、自分の選択がわからないみたいなことは、真実と架くんにすごく共通している部分なんですよね。全然違う二人に見えて、二人の実は一致している部分みたいなものが、私は見ていてすごく面白いなと思いました。

――架を演じたのは藤ヶ谷太輔さんでした。藤ヶ谷さんの架っぷりはいかがでしたか?

 すごくぴったりだと思いました。藤ヶ谷さんご自身も、架に対してすべてじゃないにせよ「自分じゃないかって思う」というぐらいシンパシーを感じる瞬間もあったそうです。お芝居する中で「わ、架くん、こういうところが抜けてたんだ」とか「こういうところを真実は不安になってしまったんだ」と気づきがたくさんありました。

 そうした部分こそ、実は架くんの“善良さ”だと思うんです。架くんがすごくピュアで善良で計算もしないから、真実の計算にも気づかない。気づいてほしいことに気づかないのも、架くんがすごくいい人だからなんだなあって。

 藤ヶ谷さんご自身もとても優しい方ですし、ちょっと抜けている部分もあって(笑)、藤ヶ谷さん自身が本来持っている魅力すべてが、架くんとしてみんなが「愛おしいな」と思うエッセンスを加えてくださっていたと思います。

親友も婚活アプリきっかけで結婚しました

――今回真実の役作りのために普段しないことをする、例えば婚活アプリをのぞくなどはありましたか?

 プラスアルファでしたことは、特になかったです。というのも、それぐらいマッチングアプリや婚活が、周りでは普通なんですよね。今の時代に響くお話だなと思っていたので、監督や藤ヶ谷さんとお話していても、すぐに「ああですよね。こうですよね」と弾むくらいでした。実は、私の親友も婚活アプリきっかけで結婚したんです。だから、親友が今の旦那さんと出会うまでの話もずっと聞いていましたし、リアルだなあって思っていました。

――身近な方の体験は作品づくりにも活きたのでは。

 そうなんです。例えば今までアプリで何人ぐらいの人と会っていて、それが多いのか・少ないのかなど、実際に使っていないとわからないですよね。人によって感覚はいろいろ違うと思いますが。だから、みんなで「これって今まで何人ぐらい出会ってるのかな?」、「何人ぐらいが多いと思う?」などとすごく話し合ったりしました。そうした話し合いの内容は、確かにこの作品ならではだったかもしれないですね。

2024.09.26(木)
文=赤山恭子
写真=佐藤 亘
ヘアメイク=masaki
スタイリスト=岡本純子