この記事の連載

 発行部数は100万部を突破、2023年最も売れた小説『傲慢と善良』の同名映画化で、藤ヶ谷太輔さんとW主演を飾った奈緒さん。

 インタビュー後篇では、凛として、たおやかな奈緒さんの内面にフォーカス。自分のことを内観し、心身ともに健やかに生きる奈緒さんが今何を欲していて、何を手放したのか。心の声を届けてもらった。

» インタビュー前篇から読む


「自分の中で何をやりたいの?」と考えてみた

――『傲慢と善良』で奈緒さんが演じた真実は、30歳で結婚することを目標に据えていた女性でした。奈緒さんは現在29歳ですが、ご自身も「何歳でこうなりたい」など具体的な理想像を掲げているほうですか?

 真実のように…ではないんですけど、それこそ結婚とかも考える年代になってきたなと思ったときがありました。いろいろと迷ったり、悩んだりしている20代ですけど、プライベート、仕事とか関係なく、「自分の中で何をやりたいの?」と考えてみたんです。

 その結果、どうしても今は仕事なんだなということを自覚したのが、ここ1年くらいでした。仕事の中でやりたいことが湧いてきたので、それを実現させたいという気持ちが自分の中では今すごくモチベーションになっています。

――いろいろと自問自答のお時間があったんですね。

 すごーく、ありました。特に『傲慢と善良』を撮影しているときは、作品テーマが「婚活」ということもあり、結婚や将来についてもあれこれ考えました。監督や藤ヶ谷さんとディスカッションしていく中で、「あれ? 自分は今どう思ってるのかな」と、自分と向き合う時間になっていったんです。考えた末に、私は「結婚をしよう」「結婚をしない」と今は決めなくていいや、という結論に達して。決断を手放すという選択を作品の前後でできたので、改めて、今一度フラットな感覚になれたのはよかったです。

――ほかに手放したことは、何かありましたか?

 結婚すると起こりうる未来像も一度手放しました。それは自分で決めたことだから、今後も後悔はせずにいられるかなと思います。現時点での自分の生き方を否定したり後ろめたく感じずにいられるかなと思うんです。

 そして、その時々できっかけがあれば、また自分の中でまた新たな決断ができるかもしれないですし。今はそれでいいのかな、迷っていたり悩んでいる時間も必要かなと思っています。

ドラマ『あなたがしてくれなくても』を振り返って

――俳優業では、作品と役についてご自身と照らし合わせて深めていくことも多々あるのかと思います。本作の結婚や婚活もですし、昨年の奈緒さんの主演ドラマ『あなたがしてくれなくても』では、セックスレスな夫婦の心のすれ違いを描いていました。作品と密に接することでご自身の考えや思いが変わったり、揺さぶられたりした経験はありますか?

 本当に、すっごく考えました! 『あなたがしてくれなくても』のときのことを思うと、私は夫婦生活をドラマというジャンルで描くのに参加することが初めてだったのもあり、本当に初めての経験ばかりでした。

 結婚はもちろん、パートナーと一緒に生きていくことも大きな人間関係の一つだと思うので、まだ築いたことのない人間関係をやっている中で「ここまで甘えていいの?」とか、「甘えてるからこそぶつけられる気持ちがあるのか」と思ったりもしましたし…。

 作品内で、離婚届を書いてもらうシーンがあったんですね。カットがかかっても本当にしんどくて涙が止まらなくなって、「絶対離婚したくない~~~」と思ったんですよ(笑)。

――そこまで! ものすごく感情移入されていたんですね!

 「もう、なんでこんな思いしなきゃいけないんだろう…」と思いましたし「私、絶対もう離婚したくないです!!」と、未婚なのに思って(苦笑)。このお仕事をしていなければ、そんな風に思うことってないですよね。役を通して疑似体験をする瞬間はどうしてもあるので、そのときにすごく考えさせられるものがありました。

2024.09.26(木)
文=赤山恭子
写真=佐藤 亘
ヘアメイク=masaki
スタイリスト=岡本純子