そしていつの間にか、乱歩の短編小説の翻案小説を書きたくなってしまいました。特に「人でなしの恋」を読んだ時は、これは完全に現代の話だと思いました。この作品は令和の今に置き換えた方が、絶対説得力のある作品になると創作意欲を掻き立てられました。また他の作品も、人工知能やスマートフォン、Wi-Fi、オンライン会議などのテクノロジーの進化と、パパ活やマッチングアプリなどの今日の社会現象を織り交ぜて現代風に書けたら面白そうだと。

 そう思い書き始めてみましたが、最初に最も大きな壁にぶち当たってしまいました。それは乱歩作品の翻案をする以上、代表作である「人間椅子」は避けて通れないということでした。しかしあの設定を令和の現代に置き換えるのはさすがに難しく、何度も挫折しそうになりました。

 そしてやっと、「令和 人間椅子」が完成しました。

 しかしいくら不朽の名作とはいえ、「人間椅子」を読んでいる令和時代の若者は少ないです。「令和 人間椅子」だけ読んでも、どうしてこの作品が生まれたかを知ってもらわなければ面白さは半減です。そこで、新旧の「人間椅子」の朗読劇を上演することにしました。当時はコロナの真っ最中で、リアルな朗読劇はできませんでしたが、声優の伊東健人さん、佐藤聡美さん、南早紀さんによる「令和 人間椅子」、同じく声優の中島ヨシキさん、大空直美さんによる乱歩版の「人間椅子」を、配信したところ好評を博すことができました。

 そして今、さらに五作品が完成し、念願の短編集が出版されます。令和版ではオリジナルのどこがどのように変わったのか、是非とも読み比べてみてください。きっと楽しんでいただけるはずです。

 もしもオリジナルの小説が手に入らなければ、音声コンテンツで聴くこともできます。

 実は一二年前に、神谷浩史さんに乱歩版の「人間椅子」をラジオで朗読してもらったことがありました。そしてそのコンテンツを再編集して、株式会社オトバンクのaudiobook.jp で配信してもらっていたのですが、今回この「令和 人間椅子」が書籍化されるにあたり、神谷さんに令和版の朗読もしていただけることになり、神谷さんの朗読による新旧「人間椅子」が、audiobook.jp で聴けるようになりました。

2024.08.22(木)