人民ペソにおいしいモヒートにサルサ。得たものはたくさん

 彼らが連れて行ってくれたのは、路地にあるバー。外国人向けの店と違い派手さはないが、天井でゆったりと旋回するファンやラジオから流れるサルサ、モヒートグラスの中でミントの葉をつぶす音がなんとも心地いい店だ。ラテン夫妻はモヒートを飲みながら、キューバでラムといえばハバナクラブ、葉巻といえばコイーバと思い込んでいた私に、地元でポピュラーな銘柄をたくさん教えてくれ、基本的に外国人が使うことのない人民ペソ(キューバ国民向けの通貨)のコインをプレゼントしてくれた。

カリブの空気とラテンのリズム。まだ昼をまわったばかりだというのに、バーは地元の人で込み合っていた。

 そのうち、店のBGMにあわせて、ラテン夫が私の手をとり踊りだした。サルサは少しかじったことがあるが、すっかり忘れてしまっている。だが、本場キューバの男性はさすがにリードがうまく、なんとなく踊ればサマになる。お腹に赤ちゃんがいるから踊れないという奥さんも、傍らでニコニコしながら見ている。外の太陽は明るく、音楽は心地よく、ほろ酔いで楽しい時間。私も彼らもご機嫌で一緒に記念写真におさまった。

この男がラテン詐欺師。でも、サルサは上手だし、人民ペソもプレゼントしてくれた。本当はいい人!?

 彼らがただのラテンな夫妻ではないとようやく気付いたのは、宴もたけなわの頃。「葉巻を自宅で安く販売している人がいる。店で買うよりずっと安い。一緒に行かないか?」という、ラテン夫の一言がきっかけだった。さては、偽物の葉巻売りだな。とはいえ、キューバでお宅訪問する機会などめったにないチャンス。一人ではないし、人目のあるところなら安全だろう。騙されついでに、ついていくことにした。

葉巻屋に向かう途中、地元向けスーパーマーケットに行きたいとリクエスト、外国人客がいない店でラム酒を購入。ハバナクラブよりはるかにリーズナブルだが、極上のモヒートを作ることができた。

 はたして、彼らに案内された家では案の定、偽物であろう高級葉巻を押し売りされた。ああ、やっぱり……。数分前までは楽しく会話していたのに残念。内心ではがっかりしながらも、キューバの家の中には興味がある。葉巻も買わずキョロキョロしている私にちょっと焦ったのだろうか。ラテン夫が悲しそうな顔で、「実は……」と話し始めた。聞けば、「妻のお腹に赤ちゃんがいる。必要なミルク代がない。なんとかならないだろうか」と。

<次のページ> 翌日もラテン夫妻が登場。決めゼリフはやっぱりあの言葉

2014.03.25(火)
文・撮影=芹澤和美