あたしはこの殺人を成功させてみせる。本当だったらこんなの出れば出るだけ自分の賞味期限を早めるタイプの番組なんだし断った方がいいに決まってる。けど殺人の舞台としてなら話は別だ。これで面倒事は清算して、あたしの実力も見せつけて、次のフェーズにいく。一石二鳥だ。
透明ガラスで仕切られたこの前室から、勝負は始まっている。本番まではあと三十分弱くらい。
あたしは心を落ち着けるために、いつものルーティン通りに、事前にSNSや公式サイトで確認しておいた出演者の情報を脳内で再確認することにした。
いまインタビューを終えたのは仁礼左馬、あたしより七つ年上の三十三歳。ニックネームをつけるなら“一発目が早すぎた一発屋”。直近出演は特に見当たらず。劇場出番がときおりあるくらい。
若くして売れるとろくな事がない、というのはうちの社長の言だが、それは本当にその通りだと思う。実力がないのにキャッチーさだけで売れてしまった、ある意味哀れな芸人である。何も考えてなさそうな柔和な顔と、悩みとかないんだろうなって思わせる肌つやが印象的。
仁礼は自分のインタビューの出来を心配するように、他の出演者の撮影を見守っている。
「今日は何時入りですか?」
あたしや仁礼のときと同じ質問を投げるディレクター。インタビューに答えているのは、“コンパ(笑)開きまくり芸人”市原野球、四十一歳。直近出演はバラエティ多数。ぜんぶひな壇かロケVTRでMCはなし。
「そら、指定された十八時に入りましたよ。プロデューサーから絶対に遅れないよう言われましたからね」
関西出身、芸歴十九年目のお笑い芸人で、数年前にコンビが解散して以降はお笑い芸人というよりタレント寄りの活動に軸足を置いているっぽい。その交友関係は芸人のみならずタレント・スタッフと幅広い。薄めの茶髪をソフトモヒカンに近しいツーブロックに刈り上げていて、四十を超えてもチャラさを脱臭できていないことの表明のよう。
2024.07.07(日)