バンビちゃんは人狼だから、叙々苑弁当なのか?
そういえば、台本を写経してたって言ってたけど……それも、人狼だからか?
そんな風に、番組外のメタな部分にも思考を巡らせてしまうくらいには、おれは本気だった。本気だからこそ、手も震える。このチャンスを逃すわけにはいかないのだ。
「はい、それじゃあ次は仁礼さん、お願いしますね」
ディレクターにカメラを向けられ、反射的に笑顔を返す。
「はい、回った」
ディレクターの合図とともにカメラのランプが光ったのを見て、芸人のスイッチを入れる。声をしっかり張って、画面越しでも熱が伝わるくらいに大きく分かりやすい声とアクションで。
どんな質問でもばっちりちょうどいい答え返しますよ、という意気込みで身構えた。だが。
「今日は何年ぶりのゴールデンですか?」
いきなりの質問に面食らい、ちょっと間が空いてしまう。
「あー、五年ぶりくらいですかね」
しかもちょっとかっこつけて気持ち短めの数字を言ってしまう。まあ別に誰も気づかないでしょ、と自分の中で解決したものの、ディレクターはこちらの予想をさらりと超えてくる。
「実は、番組で調べたんですけど、実に七年ぶりとのことですよ」
「うわ、はっず。勘弁して下さいよ」
「この七年でいろいろ改築したりしてるんで、楽屋まで迷ったんじゃないですか? ちゃんと時間通りに着きました?」
「いや、そこまでばかじゃないですって。ばっちりオンタイムで来てますよ」
「一発屋として、芸能界の上も下も経験された仁礼さんですが、今日の意気込みを一言!」
「いや誰がパンパカパンマンだけの一発屋ですか! 二発目三発目ありますから! たぶん!」
あまりに予兆のない失礼さを、おそらく自分より五歳近く年下のディレクターに向けられて驚きながらもなお、おれの反射神経はいつものリアクションを出力した。
パンパカパンマン――相方が開発したリズムネタ。上半身は裸の上に祭り法被、下半身はふんどしで、底抜けに明るいお祝いキャラ“パンパカパンマン”に扮し、耳に残るメロディにのせてテンポ良く「めでたいこと」を言っていき、横で相方が餅つきで餅をひっくり返す人のようにタイミングよく合いの手やつっこみを入れていくというネタだ。ネタ番組のオーディションに初めて受からせてくれて、芸歴一年目という異様なほど早いタイミングでおれらを売れさせてくれたネタであり、おれらを世間に認知させてくれたネタであり、おれらの存在を食い尽くして世間を飽きさせたネタである。
2024.07.07(日)