「おれ、そもそも人狼が苦手なんだよね。おれが人狼やるといっつもすぐバレちゃうし、ほとんど初日に吊られるか嚙まれるし、占い師になっても変なとこ占っちゃうし」
「まあ、この番組のやつは人狼とはちょっと違うじゃないですか。占い師とか騎士とかなくて、村人と人狼だけだし」
「そうだけど……だまし合いとか苦手なんだよね」
「確かにお前、苦手そうやな」
新たな人物の登場――今日の出演者で、おれと滝島さん以外で唯一の芸人、市原さん。見ると、その後ろに他の三人の出演者たちもいた。廊下で一緒になったらしい。市原さん含め、この四人には楽屋で挨拶を済ませてる。
おれが立ち上がって改めて挨拶しようとしたところで、ばたばたと廊下を駆ける音がしたかと思うと、開けっぱなしのドアをノックして、ディレクターらしき女性が入ってきた。
「すみませーん、皆さん揃ってますかね? 良かったら直前告知用の動画撮らせてくださーい」
ジンバルを構えながら、ディレクターが言った。ジンバルによって、ディレクターの手が多少揺れてもカメラ部分はブレずにまっすぐ対象を捉える。なにごとも上手くいってる人の人生みたいだ。道を間違えそうになっても誰かが正しい道に戻してくれるブレない人生――どこかでたとえつっこみとして使えるかな? と考えてみたけどあまり生かせなそうだ。ジンバルってそこまで単語としての認知度がないから伝わらなそう。ちなみに、手ぶれを補正するための器具である。最近はYouTuberもよく使ってるのでわりかし認知度あるかな?
「じゃあ、バンビちゃんからお願いしようかな」ディレクターがカメラをバンビちゃんに向ける。
「外で撮りますかー?」バンビちゃんが廊下を指さす。ディレクターは首を横に振った。
「すみません、前室の中でお願いします。すぐ終わるんで、皆さんお手間かけますが、ご協力お願いいたします」
ディレクターはおれたちの答えを待たずに、ドアを閉めて撮影を始めた。余計な音を立てないように口を引き結ぶ。
2024.07.07(日)