今日の共演者を知らされたときに、二番目に驚いたのがバンビちゃんだった(一番は勇崎恭吾さん)。テレビで見ない日はないし、TikTokとインスタとYouTube、三つともフォロワー・登録者数が百万人を超えている売れっ子――こんなリスキーな番組に出るようなタレントじゃない。
バンビちゃんはこの空間にまだおれしかいないことをみとめると、おれの方へつかつかと歩み寄って来た。
「初めまして、〈勇崎オフィス〉所属の京極バンビです。楽屋挨拶行かせていただいたんですけど、ちょうどいらっしゃらなかったみたいで。今日はよろしくお願いいたします!」
しっかりした直立からの深々としたお辞儀。ギャルの見た目から繰り出される百点の挨拶だった。芸歴がおれより浅いとはいえ、売れに売れているタレントにここまで丁寧にされると逆に恐縮してしまう。
「よろしくお願いします。〈アカンパニー〉の仁礼です。楽屋いなかったのは、トイレ行ってたときかも。全然気にしてないっていうか、もうおれの方が挨拶行かないといけないくらいなのにごめん」
「なに言ってるんですか、あたしアカンパニー超好きですよ。ネタめっちゃ真似してました」
「うわー、ありがと。今活躍してる子にそう言ってもらえると嬉しい。京極さんこの間の『さんま御殿』見たけど、もはや貫禄あったもんね」
「バンビでいいですよ、仁礼さん」にっこり。「仁礼さんって下の名前、なんで左馬って言うんですか? 芸名ですか?」
芸歴八年目でまっすぐ芸名の由来を問いただされると少し気恥ずかしい。
「深い理由はなくて、ノリで決めちゃったんだけど。下の名前を敬称にしたいなって思ってつけただけ。MCのめっちゃ先輩の人からも仁礼さま、って呼ばれたりしたら面白いかなって」
「いや、アクセント違うし。変な人ですね、仁礼さん」バンビちゃんはけらけらと笑った。おれは単純なので、それだけで身体があったまってくる。
2024.07.07(日)