〈アカンパニー〉というコンビの頭脳と身体は相方が担っている。ネタはすべて相方が書いているし、MC、裏回し、ツッコミ、ロケ、大喜利、ギャグ、トーク、運動神経やリズム感、顔、華、先輩づきあい――あらゆる芸人としてのスキルで相方はおれを上回っている。おれが勝てるのはクイズとかそういうのくらいで、バラエティの平場で使える武器はなんにもない。だがそれでも、この特番のキャスティング権を持ってる人はおれを選んだ。
まあ、本命の芸人に何人か断られて、スケジュール空いてて、ギャラが合って、炎上しても構わない芸人としておれの名前が挙がっただけなのかもしれないけど。
そんなおれの内心を見透かすかのように、滝島さんがおれの両肩をがしっと摑んだ。
「この特番の成功はお前にかかってるといっても過言やない。気合い入れろよ」
「いや、過言でしょ」
おれが笑ってつっこむと、滝島さんはおれの肩から手を離し、ふらふらと手を振って「俺はちょっと早めに入るから」と言ってスタジオへと入っていった。
前室には、まだ共演者は誰もいなかった。前室での立ち振る舞い、どうしてたっけ。あの頃はいつもスケジュールに隙間がなくて、時間ギリギリに局入りしてバタバタでメイクしてもらって前室に来るのもいっつも最後の方だったから、こんなに時間を持て余すこともなかった気がする。どうしよう、ディレクターさんに話しかけてみるか……と思案しているところに、
「おはようございまーす。今日はよろしくお願いしまーす」
からっとした挨拶とともに、京極バンビちゃんが現れた。しっかり巻かれた肩までの金髪とカラフルなネイル、おそらくカラコンで増幅されている眼球と、その眼球の直径よりさらに長そうなつけまつげ、ラメできらきらしたシャドー。ギャルタレントそのもののいでたちだが、そのこてこての風采よりも笑顔の晴れやかさの印象が勝る。
2024.07.07(日)