「うい、仁礼。久しぶり! 元気しとった?」
この特番のMC、滝島さんだった。細長い体軀にばっちり沿ったオーダースーツの光沢と、決して顔で魅せるタイプではないのに、そこに立ってるだけで華がある濃い目鼻立ち。
「滝島さん、お久しぶりです!」
おれは顔を上げたまま、可能な限り深々と頭を下げた。メイク室でも会わなかったし、楽屋挨拶に行ったときもちょうど寝ていらっしゃるタイミングだったのでまだ挨拶出来ていなかった。
「滝島さん、ピンマイク失礼します」
「はいよろしくお願いします」
音声さんの顔からさっきまでおれに見せていた軽薄な表情が消え、引き締まった顔と丁寧な手つきでピンマイクをつけていく。おれが舐められていたという事実がより際立った気がして精神がまた一センチすり減る。
音声さんが手際よく作業を終えて立ち去っていったのを見送ると、おれは滝島さんにまっすぐ向き直った。
「滝島さんと同じ特番に出るなんて、もうマジで無理だろうなって諦めてました」
「そうよなぁ、俺もあの一件あってからほとんどレギュラー飛んだしなぁ」
滝島さんが自分でその件に触れるとは思わなかったので、焦る。数年前に暴露系インフルエンサーに抜かれたスキャンダル。そういえば、おれとは別の意味で滝島さんとの共演が珍しいあの人の名前が出演者一覧の中にあったな……と思い至る。この辺には触れてはいけないスイッチがいくつか眠ってそうな気がして急に怖くなり、とにかく明るく返す。
「いや、どう考えても滝島さんじゃなくておれ側の問題でしょ! 深夜番組とか含めても、テレビに出るの数年ぶりっすよ」
「潜ったなぁ」滝島さんは感慨深げに「お前が売れて番組出まくってたころに一回、収録終わりに飲み行ったことあったよな。あれは三年前くらいか」
「いや、七年前です。七年前の十月六日金曜日。おれが滝島さんの番組にゲストで出させてもらった日です」
「もうそんなに経つか。てか、相変わらず記憶力良すぎるやろ」
2024.07.07(日)