この記事の連載

石原さとみの“熱量”と同じレベルに高めるためにやったこと

――撮影現場では、𠮷田監督とどんなお話をされたのでしょう。

 『ミッシング』は夫婦の物語ではありますが、やはり中心になるのは沙織里という母と美羽という娘との関係性なので、そのうえで自分のポジションをどこに取るかが重要だと考えていました。現場では、石原さとみさんが𠮷田監督とディスカッションしている姿をスパイのように観察していました。彼女がどういうところを不安に思い、沙織里をどのように捉えているのか――。そこから導き出される距離感を第一に考えていました。

 美羽がいなくなる前の夫婦の距離感、そしていなくなってしまった後の距離感について、撮影をしながら限られた状況の中でエッセンスを抽出していく必要があり、ずっと沙織里としての石原さんを見ていたように思います。

 そして、𠮷田監督の現場は、彼の人柄がにじみ出ているような明るくてリラックスした空気が流れていました。だからこそ、芝居の中で緊張や興奮を自然に出せたように思います。

――石原さんは現場でカメラが回り始める前からお芝居を始めていたそうですが、「青木さんが毎度付き合って下さった」と仰っていました。

 いやいや、当然のことです。作品が目指すクオリティを生み出すために必要なことをやるのが僕らの仕事ですから。特に石原さんは𠮷田監督の作品への出演を熱望していたわけですから、本作に懸ける想いは計り知れません。でも、僕が後から参加するといっても同じような想いは持たないといけませんし、「用意、スタート」がかかってから始めるよりはその前からじわじわと始めていき、本番になったときにしっかり高まっていた方がいいと僕自身も思っていました。石原さんもそう思っていてくれたことが嬉しいです。

 他の作品と比べるわけではありませんが――やはり本作においては、演じてはいるけれどなるべく嘘のないものに、溢れている想いの純度の高さを保ちながらやりたいと考えていました。そのために何ができるかを感覚的に拾っていったアプローチの一つです。

2024.05.17(金)
文=SYO
撮影=榎本麻美