中央入りする仕度のため、東家本邸にやって来た一行は、すぐに準備に取り掛かった。

「行儀作法だけは身に付いておられるのが、せめてもの救いでございますね」

 姫の正装を着付けながら、しかし満足そうにうこぎはうそぶいた。

「ここだから言えますが、実は私、姫さまが登殿出来ればなぁと、ずうっと思っておりましたので。万が一にと、宮廷仕込みの作法だけは、きっちりお教えしてお育て申し上げたつもりでございます」

 そうでなければこうはうまくいくまいと、心なし自慢げですらあった。

 丁寧に結い上げた髪に宝冠と金釵を差し込み、桃色の領巾を両腕にからめて出来上がりである。姫の頭のてっぺんからつま先までを眺めまわし、うこぎは感嘆の息を吐いた。

「我が姫さまのことながら、お美しゅうございますわ。お館さまはあんなことを仰っていましたが、日嗣の御子がお選びになること、絶対に間違いございません」

 際限なく褒めちぎるうこぎに照れた二の姫は、慌てて話を他にふった。

「中央まではどれくらいかかるの?」

「飛車で、たった半日でございますよ。遠出に慣れないお体にはきつく感じなさるやもしれませんが、本当にすぐですから」

「私なら平気よ」

 うこぎに手を引かれ、本邸の廊下を渡った二の姫は、車宿りから引き出されてきた飛車に息を吞んだ。見事な細工物で飾り立てられた車には、東の家のものであることを表す紋が、きらびやかに光っている。

 そして轅の先に繋がれた生き物は、二の姫が今まで見たことのないものであった。

 一見それは、一羽の烏に見えた。その羽と嘴は黒々と光り、丸い目がきょときょとと動いている。しかし、その大きさはゆうに大人の一人や二人を隠してしまう程であり、本来二本であるべき足は、何故か三本も生えていたのである。

「うこぎ、あれは何?」

 鋭い嘴にやや腰が引けた姫に、ああ、とうこぎは頷いた。

「あれは()でございますよ」

「うま? あれがそうなの?」

2024.04.10(水)