自炊と一緒で旅は慣れてくると楽しい

――おづさんが考える旅の魅力って何でしょう。

 食は旅にとって大事な要素だと思います。食べたいものを食べられたときの満足感ってすごい。後から写真を見て「これ美味しかったな」と振り返りながら、匂いや味を思い出して、「またあそこに行きたい」という気持ちになれます。

 第4章「再びの大阪食いだおれ旅」で行った、かすうどん専門店には大阪グルメの要素が凝縮されていました。うどんの美味しさ、お客さんの会話やお店の雰囲気。私は音楽のライブが好きなんですが、その一瞬のその場所にしかないライブ感がありました。

 第2章「食の都・大阪を再発見!」で行った台湾カフェの店主さんとお話ししたときに実感しましたが、旅先で知らない人としゃべるのも楽しいですね。誰かとあんなに台湾の話をしたことがなかったので、忘れられない思い出になりました。心がちょっと温かくなって、旅をしたなって。旅好きの人たちが「現地の人との交流が楽しい」と言っていたのはこういうことだったのか、と初めてその言葉の意味を理解しました。

 そうやって旅をしていると自分を振り返る時間もあって、意外と今までの人生も悪くないと思えて来たんです。自分のことがわかっていないと「ひとり旅が楽しい」なんて思えないだろうし、ひとり旅を楽しめるところまで来た達成感のようなものがあります。

 この本を見て「ひとり旅をしてみよう」と思ってプランを立てる方がいても、たぶんそれぞれ違う旅になるはずで。その人の歩んで来た道によって、全く違うものを見ようとすると思うんです。

――読者に向けて、最後に一言お願いします。

 今回の本の感想を見ていると、これまでよりも幅広い層の方に手に取っていただいているのかなと感じています。10代の方や男性もいらっしゃるようで。いろいろな方に楽しんでもらえたら嬉しいです。

 「あまり旅しないので楽しめるかなーと思っていましたが、読んでみたら、こんな旅があるんだ!とときめいた」というメッセージをいただいたときは、私と同じような人がいたんだなと共感しました。

 この本の旅を通じて、私自身が「旅っていいな」と気づくことができました。行けば行くほどちょっとずつ楽しくなるから、旅は慣れですね。慣れてくると楽しい。自炊と一緒です。

ゆるり より道ひとり旅

定価 1,320円(税込)
文藝春秋
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2024.03.19(火)
文=松山あれい