今年1月に発売された、おづまりこさんの旅コミックエッセイ『ゆるり より道ひとり旅』(文藝春秋)。

 収録されているのは、美味しそうなお店や立ち寄りたくなるスポットがいっぱい詰まった、京阪神エリアの6つの旅。のんびりとした旅が読者の共感を呼んでいます。

 しかし意外なことに、つい1年程前までおづさんは旅が苦手だったそう。そんなおづさんが旅の本を出すにいたった舞台裏をお聞きしました。


初回の旅は大好きなパンをテーマに

――苦手だった「旅」を描くことにしたきっかけは何ですか。

 2019年頃に、ふと「そろそろ旅がしてみたい」と思ったんです。苦手を克服したいし、チャレンジするなら今だと思っていろいろと企画したんですが、いざ行こうとしたらコロナ禍になりどこにも行けなくなってしまって。実家に帰省すらできない日々でした。行けないと「行きたい」という思いが募るんですよね。

 旅行解禁後に、とりあえず京都に行ってみました。世界中から旅行客が集まる観光地だし、ノープランでもなんとかなる!と思ったんですけど、実際は全然楽しめなかったです。帰って来たときに、「え、なんだったんだろう……これは」って。

 振り返ってみて、私の場合は「事前にテーマを決めてから行った方が良い」ということに気づいたんです。そんな反省から生まれたのがその後の旅であり、この本です。

――ひとり旅ビギナーのおづさんが6つの小旅行を通じて、どんどん旅行エキスパートになっていく様子が面白かったです。

 まさに、旅をしながら慣れていくっていう感じでしたね。

 第1章「京都で思いっきりパンづくし」のときはまだ旅が苦手だったので、日常の延長線上を意識しました。「普段好きなものから入った方が気軽に行けるかも」と考えて、初回は「京都で美味しいパンを食べる」というテーマにしたんです。関西の実家に帰省できなかった時期にネットでお店をチェックしていたら、京阪神の行きたいお店が溜まってしまって。

 そう決めた後は移動手段を地下鉄に絞り込めたし、すんなり予定が決まっていきました。京都は学生時代に住んでいたこともあって、土地勘があったのも良かったです。

 マイリストや雑誌の情報をもとに行くお店を厳選したら、最新情報をネットで確認。出発前に行きたいお店をしっかり決めておいたので、安心して出発できました。

――出発前から旅が始まっていらっしゃるのが良いなと思いました。

 自分にとって旅行は、出発前が7割くらい。先に何をするか決めてから行った方が良いと実感したのもありますが、準備そのものが楽しいですよね。

 カバンに荷物を詰めている段階で、いつものお出かけとはちょっと違う。スーツケースを用意したり、旅行用に新しいものを買う楽しみもあるし。服もやっぱり、普段とちょっと違うものを着たり。

 「京都で思いっきりパンづくし」の前は、1週間パン断ちをするところから始めました。もともとパン好きなので毎日食べていたんですが、行く前にパンを食べていない方が、より楽しみが増すかなと思って。

「旅のミッション」はたったひとつでいい

――苦手と言いつつ、最初の「京都で思いっきりパンづくし」の旅からちゃんと楽しんでらっしゃいましたね。

 楽しかったですね。めちゃくちゃパンを買い込みました。冷凍することが前提だったので、冷凍庫に入る量から逆算して、「この保冷バッグがいっぱいになったら終了」と決めて。

 ただ、「わたしの1ヶ月1,000円ごほうび」という連載をやっているせいか、お店に入ると不思議と1,000円以内で購入しようとするんです。私の場合は、何か制限があった方が選びやすいし、制限の中で考えることがすごく楽しいみたい。「今日食べる分、明日の分、あともう1個食べたいな」と。3個で1,000円分買ったら、このお店はコンプリート、みたいな。

 旅の枠組みの中でも、「あのお店のあれを食べよう」とか、核となる”やりたいこと”をひとつ決めています。「そこのお店に行ったらミッション完了」くらいの気持ちでいいんじゃないかと思っています。

 実際、「京都で思いっきりパンづくし」の旅のときも昼間にパンを食べたら満足して、夜はラーメンを食べていましたから。

2024.03.19(火)
文=松山あれい