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「小田には感謝の気持ちがない」

 少しずつ、少しずつ、歯車が狂い出していた。足下の地盤が少しずつ、少しずつ、崩れ始めていた。しかし小田は気づいていなかった。マイペースな人特有の、あるいは自身が自己顕示欲が薄い人だからなのか、小田には人の屈折した心理に気がつかないところがあるのかもしれない。

 このころを考える時、思い出す逸話がある。

 それは小田の学生時代、毎回、コンサートを手伝ってくれていた高校の仲間たちの一部から「小田には感謝の気持ちがない」と責められたという話である。この時、小田はまさに青天の霹靂だったようで、こんな風に話している。

「みんな充実感をもって楽しくやっていると思っていたんだ。ステージに立って歌う係とサポートしてチケットを売る係の、役割の違いだけだと思っていたんだ。だから感謝の気持ちって言われて本当に驚いた。みんな楽しくやっていたじゃないかと。ヤスと地主は言われないわけよ。彼らには感謝の言葉とかがあったのかなあ。この時、あ、違ったんだと思ったんだ。全体を見れていない俺っていうのもあったんだろうね。突然の一揆みたいな感じで、すげぇショックだった」

 状況は全く違うが、鈴木に「『さよなら』は小田が書いた曲で、俺のヒットじゃない」と言われた時も、「えっ、『さよなら』はオフコースのヒットだろ」と思った自分がいたようなのだ。俺が、俺が、という意識が希薄な小田らしいエピソードとも言えるのだが、それでは済まないこともあるということだろう。

空と風と時と 小田和正の世界

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2023.12.31(日)
著者=追分日出子