この記事の連載

 1624年(徳川三代・家光公の時代)の創業以来、北大路魯山人ら多くの文人墨客が逗留した老舗「白銀屋」の歴史を受け継ぐ「界 加賀」。後篇では、伝統芸能の加賀獅子舞や、宿の食事でも使われる九谷焼の金継ぎ、茶の湯体験などのアクティビティを中心にご案内します。


厄を払い福を呼び込む加賀獅子舞

 全国22カ所に展開する星野リゾートの温泉旅館ブランド「界」には、それぞれの地域の伝統芸能、工芸などを満喫できるおもてなし「ご当地楽」が用意されています。ここ「界 加賀」では、金沢市の無形民俗文化財にも指定されている伝統の加賀獅子舞を、地元の工芸作家や民俗芸能チームの協力を得て独自にアレンジし、毎晩上演。

 振り付け、衣装、音楽をすべてオリジナルで制作し、勇壮な武家文化の伝統はそのままに、新しく独創的な加賀獅子舞を毎晩スタッフが披露しています。獅子を退治せんと薙刀をふるう若武者と、暴れ踊る獅子。真鍮が仕込まれた歯をカツカツと鳴らしながら会場を舞い踊り、観客にも襲いかかります。

 加賀獅子の特徴である、“八方睨(はっぽうにらみ)”とよばれる独特の風貌の獅子頭は、間近で見るとかなりの迫力。大きな口が目の前でバカッと開き、噛みつかれそうになると、大人でも思わず身構えてしまうほどです。そのぶん、厄を払い福を呼びこむパワーも強力そう。新たな年の幸福を願って、ぜひ噛みつかれてみてください。

金継ぎの一部を体験できる「金継ぎいろは」

 「界 加賀」には、2015 年の開業当初に地元の九谷焼、山中塗の作家に依頼した器、そして前身の「白銀屋」から受け継いだ多くの器がありますが、毎日使用することにより、どうしても劣化や破損が生じてしまいます。

 それを廃棄するのはもったいないと感じた元蒔絵師のスタッフが、自分たちの手で大切な器を守っていくことを目的に2019年から金継ぎの技術をスタッフ間に広めてきました。これまでに修復を行った器の数は300点を超えるそう。この修復作業をより本格的に行うため、伝統建築棟の一角に造られたのが「金継ぎ工房」です。

 ゲストが金継ぎの一部を体験できる「金継ぎいろは」では、まず金継ぎの歴史や道具、「界 加賀」との関わりなどについてレクチャーを受けます。そしていよいよ、金継ぎ体験。ゲストが体験できるのは、金継ぎの数ある工程のうち3工程――欠けた器を漆のパテで埋める「埋め」、継いだ部分に金粉を蒔く「粉蒔き」、蒔いた金粉を漆で固める「固め」のいずれか。

 漆は湿度や気温により、硬化するまでに数日から1週間ほどかかることもあり、その日の作業状況により体験できる内容は異なります。金継ぎの一部を実際に体験することで、その難しさや奥深さを実感でき、器への愛着も増してくるはず。館内のショップでは初心者向けの金継ぎキットも販売されているので、これを機に金継ぎデビューするのもアリです。

2023.12.29(金)
文=伊藤由起
撮影=志水 隆