この記事の連載

 標高1,269メートルという日本一高い場所に位置する中禅寺湖。そのほとりに佇む「界 日光」は、歴史ある避暑地ならではの優雅な滞在が叶う湯宿です。前篇では、この地の伝統工芸や、名物の湯波などを堪能できる特別な夕食をご紹介します。


繊細な手仕事「鹿沼組子」を贅沢に使ったご当地部屋

 「界 日光」では、「鹿沼組子(かぬまくみこ)」や「日光彫」といった、この地ならではの伝統工芸の意匠を館内の随所に見ることができます。とりわけその伝統美を堪能できるのが、「鹿沼組子の間」と呼ばれる1室限定の“ご当地部屋”です。

 組子とは、障子や欄間、襖などの一部に組み込まれる細かい部材のこと。釘や接着剤を使わず、小さなパーツを手作業で組んだ幾何学模様が特徴です。一説によれば「鹿沼組子」は、日光東照宮造設のために全国から集められた腕利きの職人たちが伝えたのが始まりだとか。

 ご当地部屋では、組子によって男体山といろは坂を描き出した「鹿沼組子書院障子」のほか、伝統的な麻の葉模様の装飾を施したベッドボード、床の間のオブジェなどにも「鹿沼組子」の精巧な細工を見ることができます。組子が縁取る中禅寺湖と日光連山の眺めは格別の趣があり、いつまでも眺めていたくなります。

 ちなみに「界 日光」の客室は、3,000坪の敷地にわずか33室。ほとんどの部屋が60平米以上あり、パブリックスペースも含め余裕のあるつくりが魅力のひとつです。

ロビーやトラベルライブラリーも至るところに組子が

 大きな窓から中禅寺湖のパノラマ望む「トラベルライブラリー」は、栃木の歴史や自然、工芸にまつわる本などが用意されているラウンジ空間。散策の合間や食後などに、コーヒーやハーブティーなどを楽しみながら、思い思いの時間を過ごすことができます。

 その一角には、はがきやオリジナル切手(1セット150円)、ガラスペン、インクなどが用意されたスペースも。デジタルメッセージを送るのとはちょっと違う、ゆったりとした心持ちで手紙をしたためることができます。

 ちなみにインクは、「日光天然かき氷ブルー」「いろはオレンジ」といったご当地感のあるカラーがあり、文具マニアにはたまりません。

 伝統工芸をより身近に感じられるのが、トラベルライブラリーで通年開催されているアクティビティ「鹿沼組子のアクセサリーづくり」(15:00~21:00、所要時間は約30分、料金2,000円)。好きな色の鹿沼組子、とんぼ玉、タッセルなどのパーツを組み合わせて、ストラップ、ヘアピン、ヘアゴムのいずれかを作ることができます。

 手にした組子は思った以上に軽く、小さいながらも伝統工芸の美しさが宿っています。色の組み合わせに、それぞれの個性が出るのが面白いところ。旅の思い出に、大切な人へのお土産にもおすすめです。

2023.06.03(土)
文=伊藤由起
撮影=鈴木七絵