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地の食材と長崎の食文化を堪能する会席料理の夕食

 真っ白い湯煙を噴き上げる雲仙地獄の迫力と、「和華蘭文化」と呼ばれる長崎独自のエキゾティックな文化に触れることができる温泉旅館「界 雲仙」。後篇では、目にも華やかな卓袱料理など長崎の食文化をとりいれた会席料理の夕食や、地熱のパワーを体いっぱいに感じるアクティビティなど、さらなる魅力をご紹介します。

 界の大きな楽しみの一つが、地元の食材や食文化などご当地感をたっぷり感じられる夕食。「界 雲仙」でも、雲仙地獄や長崎発祥の伝統料理などをイメージし、オリジナルなアイデアを随所に凝らした会席料理を味わうことができます。

 食事処はすべての席が広々とした半個室。周りを気にせずにくつろげるプライベート感のあるダイニングとなっています。パーテーションには地元・長崎の波佐見焼の食器があしらわれ、その大胆なデザインに驚かされます。

 メニューを開くと、先付けから最後の甘味まで、長崎ならではの味わいや工夫がふんだんに盛り込まれた品々が並び、食欲がそそられるばかり。中には「鬼やらい」や「かんざらし」など聞き慣れない言葉もあり、果たしてどんな料理が登場するのかと期待が高まります。

 先付けは、「“鬼やらい”湯せんぺい 豚角煮リエット」。名前だけでは一体どんなものなのか想像ができませんが、運ばれてきた料理を見ても謎が深まるばかり。鬼の描かれた紙が乗ったおせんべいに、小さな木のハンマー……?

 丸いおせんべいは、雲仙の温泉水を生地に練り込んだこの土地の名物「湯せんぺい」。そして「鬼やらい」とは、大晦日や節分に鬼を払って疫病を逃れるという、長崎地方など日本各地に伝わる行事です。鬼の絵にハンマーを打ちつけて湯せんぺいを割り、中のリエットをディップのようにすくって食べるという、実に凝った料理なのです。

 長崎の名物料理、豚の角煮をリエットにするという発想も斬新で、湯せんぺいの軽い風味との相性もぴったり。この鬼やらいでコロナ禍も払えればいいのにな、と思わずにいられません。

 初めて訪れた「界 雲仙」の夕食を満喫しようと、今宵は特別会席にアップグレード。メインとなる台の物は、あご(トビウオ)の旨みいっぱいの出汁でいただく「あご出汁しゃぶしゃぶ」です。鍋の中に立派なあごの姿が泳いでいてびっくり!

 具材には和牛ロースや新鮮な伊勢海老、ふぐなど豪華な食材が並び、彩りも華やか。あご出汁はそのまま飲み干したくなるほど味わい深く、次は伊勢海老、次は野菜とどんどん箸を運びたくなります。ゆずの香りが広がる長崎の「ゆべし」などの調味料も添えられており、“味変”も申し分なし。鍋の最後は、名産、島原のうどんで締めて、おなかも心も大満足です。

 ちなみに、翌朝の「ご当地朝食」で目を引いたのが、小鍋仕立ての「具雑煮」。丸餅や野菜、鶏肉などをたっぷり入れて煮込む、長崎県島原地方の郷土料理です。どこか懐かしいような優しい味わいで、体もほんわり温まります。バラエティ豊かな小鉢も揃い、朝から活力が湧いてくるあさごはんでした。

2023.01.12(木)
文=張替裕子(ジラフ)
撮影=橋本 篤