「界 由布院」は、古き良き農村を思わせる山間にひっそりと息づく温泉旅館です。主役は、由布院の原風景といえる棚田を中心としたランドスケープ。訪れるゲストも、その風景の一部となり、心ゆくまでくつろぐことができます。今回は1泊2日の滞在をモデルに、前篇で温泉や食事、後篇では朝食やアクティビティ、立ち寄りスポットなどもご紹介します。


雄大な由布岳を眺めながら開放的な湯浴みを楽しむ

 宿の東側に位置する大浴場では、豊後富士とも呼ばれる由布岳の雄姿を眺めながら、開放感いっぱいの湯浴みを堪能。内風呂には、源泉かけ流しの「あつ湯」と、心身ともにリラックスできる「ぬる湯」が用意されています。

 露天風呂に行ったら、ぜひ「寝湯」へ。周囲の自然と一体化するような長湯を楽しみ、心と体を解きほぐしましょう。

 泉質は「弱アルカリ単純温泉」。肌を整える成分として化粧品の成分にも使われるメタケイ酸を豊富に含むため湯ざわりがやわらかく、年齢を問わず入りやすい湯です。

 温泉に入る前にぜひ参加したいのが「温泉いろは」(毎日16時15分~30分。無料)。温泉地の歴史や自然環境、泉質などの知識を持つ「界の湯守り」がガイドとなり、さまざまな角度から温泉の楽しみを伝えます。

 例えば、山深い由布院温泉が“別府の奥座敷”として広く知られるようになったのは、大正期以降であること。由布院の名は、当地で作られる「木綿(ゆふ)」から来ていること(諸説あり)。由布院エリアには昔から棚田が多く、宿の建物がある場所も、50年ほど前までは一面の棚田だったこと――。

 また、1泊2日で湯治の効果が得られる入浴法や、入浴前に体をリラックスさせるストレッチを含む、界オリジナルの「現代うるはし湯治」の要点もわかりやすくレクチャー。滞在がより豊かになること間違い無しの、充実の15分です。

 四季折々の美しさを見せる、棚田の風景。春、水をはった棚田が映し出す青空や森の表情、田植えの後のみずみずしい新緑。取材時は晩夏のころで、成長した稲が風に揺れ、夕方になると水面をトンボが行き交い、ヒグラシが夏を惜しむように鳴いていました(そして夜はカエルの大合唱!)。

 棚田一面が金色に輝く実りの秋、雪の積もった冬景色もまた、特別の風情がありそうです。

 棚田を中心とした宿の設計・デザインは、同じ大分県内の「界 別府」に続き、隈研吾氏が担当。作り込んだ日本庭園に勝るとも劣らない棚田の純粋な自然美を、最大限に活かす手腕はさすがです。

2022.09.05(月)
文=伊藤由起
写真=橋本篤