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 2022年6月に開業10周年を迎えた「星のや竹富島」。珊瑚の砂が敷き詰められた小路、「グック」と呼ばれる石積みの塀、琉球赤瓦の木造平屋建築も味わいを増し、周囲の自然に溶け込みつつあるようです。私たちもひととき島の住民となり、島本来の風景と暮らしに身を委ねてみましょう。


澄みきった青い海と空が広がる島でゆったりとした時間に身を委ねる

 私たちが取材に訪れたのは、秋特有の乾いた風「新北風(みーにし)」が吹き抜けるころ。竹富島の年間平均気温は24℃、冬でも平均18℃と1年を通して暖かく、過ごしやすい秋冬を選んで訪れる人も多いといいます。

 「星のや竹富島」があるのは、ジャングルと牧草地に囲まれた島の東側。港から専用車で宿へと向かう途中、牛たちがのんびりと草を食む様子に、“島時間”の始まりを予感します。

 宿の門をくぐり、ハイビスカスや芭蕉、月桃などが生い茂る小路を抜けてレセプションへ。客室までは施設内専用のカートで向かいます。

 こんもりとした丘の見晴台に上れば、施設の全景が一目瞭然。およそ2万坪の敷地に、島の伝統を踏襲して建てられた客室が並んでいます。その並び方は、竹富島にある既存の3つの集落と同じ井然形式と呼ばれるもの。間に道を介さず屋敷地を連続させることで、家々の屋根が連なるリズミカルな景観を創り出しています。

 開業当初は真っ白だったという珊瑚で作られた石垣、赤瓦屋根の漆喰も、10年という歳月のなかでグレーがかった色を帯び、植栽はしっかり根付いて周囲の自然と同化。ここが真の意味で「4つ目の集落」となりつつあることが伺えます。

 施設中央に位置するプールは、全長46メートル。年間を通して利用可能です。泉をイメージしたという、すり鉢状に深くなっていくデザインは、泳ぐだけでなく、浅瀬で椅子に腰掛けたり、脚だけを水につけて寛ぐこともできる形。日中は澄みわたった空を、夜は満天の星を視界いっぱいに望み、五感を解放しながら、島と一体になる時間を過ごせます。

 レセプションに連なる「ゆんたくラウンジ」は、単なるロビーラウンジではありません。ふわふわのクッションをおいた1人がけソファ&テーブルのほか、寝転ぶことも可能な大型のソファーベッドが3台あり、ドリンクやおやつを楽しみながら、第2のリビングとしてくつろぐことができます。

 ちなみに「ゆんたく」とは、「お話(おしゃべり)」という意味。ご近所同士のおしゃべりから、宿泊先のおもてなし、旅行者と地元の人の交流という意味でも使われている沖縄の言葉です。

 バーも併設されており、泡盛の飲み比べなども可能(3種類の利き酒セット 1,815円)。ライブラリーで滞在中に読みたい本を選んだり、ショップで伝統工芸などのお土産を選ぶのも楽しいひとときです。

 また、「命草バスソルトづくり(後篇参照)」や、「織りあそび(竹富島の伝統的な織り機で、草木染の糸を使った織り物体験)」など、竹富島の文化体験もこちらでどうぞ。夕方からは、古謡や三線の演奏「夕凪の唄」が始まり(16:45~17:15)、そのたおやかな声と音色を周囲に響かせます。

2022.12.01(木)
文=伊藤由起
撮影=榎本麻美