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地獄からの恵みを現代の湯浴みでじっくりチャージ

 さぁ、そろそろ雲仙温泉の湯を楽しみましょう。界では、温泉の本質を伝え、湯治文化を現代に受け継ぎたいという想いのもと、「うるはし現代湯治」を提案しています。心と身体を調える温泉の入浴法や呼吸法、湯上がり処でのくつろぎ方など、温泉にまつわる知識を「界の湯守り」が案内してくれます。

 そのプログラムの一つが「温泉いろは」。「界 雲仙」でも、雲仙温泉の歴史や泉質などについて、大きなイラストが描かれたタペストリーを使いながら、楽しく、そして分かりやすく解説してくれます。

 もともとは「温泉」と書いて「うんぜん」と読まれていた歴史もあるという雲仙は、幕末にオランダ商館医ケンペルやシーボルトを通じてヨーロッパでも知られるように。温泉の魅力もさることながら、標高700メートルという立地から年間を通じて気温が低めであるため、開国後の明治期以降は欧米人が避暑を目的に訪れたそうです。なんと長崎港からカゴに乗ってはるばる雲仙までやって来たというのだから驚きです!

 そのため、雲仙温泉には外国人向けのホテルが次々と開業し、大正時代に入ると県営ゴルフ場や県営テニスコートもつくられたそう。いわば九州の軽井沢だったのかもしれませんね。その後、雲仙地域は1934年に日本初の国立公園に指定され、2019年には国立公園を中心に日本初のユネスコ世界ジオパークに認定されました。

 雲仙地獄はまた、約100年前から自然の地熱を利用した給湯設備「燗付け(かんつけ)」としても利用されてきました。「界 雲仙」でも、給湯や温泉の加温、館内の空調にこの燗付けを活用。燗付け場の配管を通して冷めた湯を温めたり、熱い湯の熱を循環させたりと、雲仙地獄の地熱エネルギーを効率的に使用しています。

 「温泉いろは」で入浴前の呼吸法やストレッチを教わったら、いよいよ湯小屋と呼ばれる大浴場へ。「界 雲仙」の湯小屋には、大きなステンドグラスから差し込む光が美しい内風呂と、大自然に囲まれた露天の岩風呂が備えられています。内風呂には、源泉かけ流しの「あつ湯」と、心身ともにリラックスできる「ぬる湯」の2つの浴槽が。ぬる湯は雲仙地獄の燗付けを利用しているそうです。

 雲仙温泉源泉は鉄分と硫黄分を含む酸性の単純泉で、濁った色みが特徴。湯守の説明によると、その色も日によって赤みがかっていたり、白っぽかったりと変わるのだそうです。泉質としては少し強めで、長湯をすると体が疲れてしまうため、湯に浸かるのは短時間にとどめ、1日に1~2回の入浴がおすすめとのこと。

 また、入浴後には、真湯で温泉成分を洗い流す「上がり湯」を行うことで、湯あたりや湯ただれを防ぎ、肌の潤いが保たれます。これもまた、「うるはし現代湯治」のプログラムがあってこそ得られる知識です。

 広々とした湯小屋の内湯や、自然の風の中にも硫黄の香り漂う露天風呂で体を温めたら、湯上がり処でオリジナルドリンクを飲んで水分補給とクールダウンを。あとは、就寝前に客室の露天風呂で軽く湯浴みを楽しもうかな。体に負担をかけないよう、適度な入浴法で心と体を整えることこそ、界の「うるはし現代湯治」なのです。

2023.01.12(木)
文=張替裕子(ジラフ)
撮影=橋本 篤