この記事の連載

 島根県・玉造温泉の「界 玉造」は、国内屈指の美肌の湯として知られる温泉と、島根の美酒美食を心ゆくまで味わえる温泉旅館です。前篇では、冬の味覚の王様・松葉蟹づくしのプレミアムな会席料理から、他府県ではなかなかお目にかかれない島根が誇る銘酒の数々、勇壮な神楽、全室露天風呂付きの客室も詳しくご紹介します。


「タグ付き活松葉蟹」を食べ尽くす至福の夕食

 山陰の冬の味覚、松葉蟹のシーズンもそろそろ終盤。食べ納めをするなら、夕食は「タグ付き活松葉蟹会席」をぜひ。厳格な基準をクリアしたタグ付きの活松葉蟹を、1人につき約1.5はい使用する会席コースは、いまの時季だけの贅沢です。※夕食アップグレード代として1人21,400円プラス。提供は3月10日まで。

 蟹刺身、焼き蟹、甲羅焼き、揚げ物、蒸し蟹、鍋……と、その名の通り蟹づくしのコースですが、部位や調理法によってさまざまな風味、食感のバリエーション楽しむことができ、いくら食べても飽きるどころか人を虜にするのが松葉蟹の魅力です。恐ろしい子!

 なかでも印象的だったのが、「界 玉造」名物・蟹の奉書蒸し。松葉蟹を奉書紙(厚手の和紙)と薄い杉板で包み高温で一気に蒸しあげる技法は、松江藩七代藩主・松平不昧公(ふまいこう)が好んだ料理としていまに伝わる“宍道湖産スズキの奉書焼き”にならったものだそう。

 奉書紙が旨みを逃さず、蟹にかかる熱をほどよく抑えるので、身はみずみずしく、ふっくら・ほくほく。ほのかな杉の香りも気品に溢れ、穏やかな香りとキレのよい酸味の「隠岐誉 純米吟醸」(隠岐酒造)がよく合いました。この日の蟹は隠岐の島産だったので、なおさら合わないわけがない組み合わせ。

 台の物(鍋)は蟹すき鍋。宍道湖名産のしじみ出汁をはった鍋が用意され、まずは大粒のしじみを煮ていただきます。旨みが倍増したその出汁で蟹や野菜を煮て食べ、最後は雑炊ですべての旨みを回収する流れ。

 しじみと蟹の濃厚な出汁を吸ったご飯のおいしさといったらもう。すでにお腹はぱんぱんなのにお代わりを止められず、気づけば完食。今季の松葉蟹は満喫したと断言できる、めくるめくコースでした。

2025.02.19(水)
文・写真=伊藤由起
写真協力=界