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スポンサーはともにドラマを作る仲間

――ドラマを作るとき、村瀬さんはターゲットを設定しますか?

 僕は常に設定しています。フジテレビの連続ドラマには今、月9、水10、木10、金9という枠があり、それぞれの枠ごとにターゲットを設定しているので、僕もそこに向けて作っています。意外に思われることが多いですけど、僕は自分の好きなものや自分が面白いと思うものを作っているわけではなく、今回なら「木曜10時を見てくれるお客さんに喜んでもらえるものを作ろう」というのを前提として作っています。枠とか、もっというとスポンサーさんのことを考えて企画を考えています。

――スポンサーですか?

 「地上波では制約が多すぎて好きなことができない、それはスポンサーがあるから」と言う人がいますけど、たとえば『いちばんすきな花』のセリフにはスポンサーではない企業の商品である「パイの実」が出てくる。「LINE」もそう。今どき「メールするね」なんて誰も言わないじゃないですか。「LINEするね」はもう普通の日本語ですよ。だからこれは使わせてほしいと営業を通じてスポンサーの皆さんにお話したら、理解してOKして頂けたので使えているわけです。僕はスポンサーさんを敵だと思ったことがない。テレビってスポンサーのお金で作っているから、僕はスポンサーを一緒に戦っている仲間だと思っているし、彼らに喜んでもらいたい、提供してよかったと思ってもらいたいと思いながらいつもドラマを作っています。

――「慣習的にこの言葉は使えないからやめておこう」と判断するほうが時間もかからないし、楽ですよね。でもそこで村瀬さんは面倒がらずに対話をするわけですね。

 だって「プリントシール」って言いたくないじゃないですか、「プリクラ」って言いたい。絶対にその言葉を使いたいという気持ちのほうが強いんです。スポンサーへのプレゼンも大好きですよ。キャストやスタッフはもちろん、スポンサーも含めて仲間とともにドラマを作っている感覚。これも、僕がテレビ局に居続けたいと思うひとつの理由かもしれない。

――年齢を重ねていくことで、ターゲットとの乖離を感じることはありますか?

 30代の頃は、自分が50歳になって月9をやっていてはいけないと思っていました。月9は若い人に向けたドラマを作るべき場所だから、若いプロデューサーが打席に立った方がいいという思いは今も強く持っています。自分は若い感覚を持っているから大丈夫なんて思ったことは一度もないです。

 でも一方で、年齢を重ねる意味もあるのかも、と思っています。僕の代表作と言える『14才の母』は30歳の頃に作ったドラマでした。そこから20年経って『silent』という新たな代表作を作ることができた。しかも、日本テレビとフジテレビ、2つの局でヒットを出せた。これは自分の中ではセ・パ両リーグ制覇できたような気持ちで(笑)。

――すごいことですね。

 これができたのは、まさにここまで自分が得てきた経験とか、まさに本に書いたチームづくり、人との出会いの積み重ねによるものだと思うんです。これは、30歳の僕にはできなかったことで、50歳の僕なりのやり方がある。だから会社がやっていいよというならばまだしばらくはいまの自分のやり方でやってみようと思っています。

 ただ、50歳の僕が60歳の脚本家と組んでいてはいけないと思うんですよ。ターゲットが自分よりも若い世代になってきたのであれば、生方さんや風間太樹監督のような、ターゲットの感覚をより理解できる人たちをたくさん呼んで一緒に作っていこうと。この本の根底に流れているのは「自分一人では何もできない」ということ。だからみんなの才能を集めてものを作っている。それが、50歳になった僕がテレビドラマを作るやり方なんです。

――なるほど。年齢を重ねたからこそできる作り方があるわけですね。

 大きな声では言えませんけど、今僕が準備している来年のドラマもすごいですよ。僕は毎回作るたびに「これが僕の集大成です」と言っていて、集大成詐欺みたいになってるんですけど(笑)、今度はスタッフもキャストも、自分の中でのアベンジャーズのような人たちが集まる、本当の集大成になりそうです。まだまだ先の話ですが、楽しみにしていて頂けたら嬉しいです。

村瀬 健(むらせ・けん)
フジテレビジョン 編成制作局ドラマ・映画制作センター 部長職ゼネラルプロデューサー

早稲田大学社会科学部卒業後、日本テレビに入社。『14才の母』などのヒットドラマを手がけたのちに転職。フジテレビ入社後は『太陽と海の教室』『BOSS』『SUMMER NUDE』『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』などを手がける。映画でも『信長協奏曲』『キャラクター』などのヒット作品を送り出す。
2022年に手がけたドラマ『silent』が大ヒットを飛ばし、累計見逃し配信数で民放歴代最高記録を樹立。『silent』の脚本家・生方美久と再びタッグを組んだドラマ「いちばんすきな花」が放送中。

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2023.12.21(木)
文=釣木文恵
写真=深野未季