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テレビの「暴力性」とリアルタイム性

――地上波で戦う村瀬さんが考える、地上波ならではの強みはどんなところですか?

 まず、何と言っても0円ということです。YouTubeも無料だけれど、これだけ長尺の連続ドラマという形態をとりながら無料のものって、地上波のテレビを除くとほとんどないと思う。本当の意味でお客さんを選ばない。誰でも見られる。そしてもう1つが、テレビっていまだにいろんなところに置いてあるじゃないですか。定食屋や喫茶店でテレビがついているところはたくさんある。その「暴力性」です。

――暴力性。

 例えば、今こうして僕はインタビューに答えてとうとうと語っていますけど、もしここに音楽が流れてきたら、みなさんそちらに耳が行くと思う。しかも、その音楽が素晴らしかったら、僕の話そっちのけでその音楽に夢中になると思うんです。それはエンターテイメントの暴力性だと思うんです。いい意味での暴力性。そういう暴力性を発揮できるのは音楽と、もうひとつはテレビなんですよ。むりやり見せる力ですね。定食屋ですごくいいドラマが流れていたら、話している人もつい見入ってしまう。そんなパワーがある。こんな武器を手放すのはもったいないなと思うんです。

――TVerの普及によって時間を問わずテレビ番組を見る人たちも増えていますが、『silent』や『VIVANT』のように突き抜けた盛り上がりを見せるドラマは「リアルタイムで見たい」という人も多い気がします。

 リアルタイムで見る喜びって、やっぱり情報を知って後から見るのとはぜんぜん違いますよね。このリアルタイムの面白さは、僕ら地上波テレビの持つ強さだと思います。いま放送している『いちばんすきな花』の最終回にも、実は仕掛けを用意しているんですよ。「リアルタイムで、地上波でいま見なきゃ」と思わせるアイディアはいつも考えています。それはテレビドラマプロデューサーとしての使命だと思っています。

――『いちばんすきな花』7話で物語の大きな鍵を握る美鳥(田中麗奈)の正体が明かされたときもドキドキしましたが、そういった仕掛けが、今回のドラマでは自然に物語の中に入っていますね。

 脚本家の生方美久さんは、「仕掛けてやろう」と思う僕とは違って、もっと純粋に面白いものを描こうとしています。ただただ人を丁寧に描いている。でも、彼女は連続ドラマをたくさん見てきた人だから、「来週はどうなるんだろう」というテレビドラマの楽しみ方が自然と魂に宿ってるんですよね。だから僕が「ここで次回への引っ張りを作りましょう」なんていやらしいことを言わなくても、自然と次回が気になるように書こうとしてくれる。そこに僕はとても共感してドラマを作っていますね。

2023.12.21(木)
文=釣木文恵
写真=深野未季