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「何もしていない」のと「何もしていない演技」の違い

――成田洋一監督からは、「彰だけ別世界にいるように」と指示を受けたそうですが、どのようなしぐさや表現でその世界観を構築されたのでしょうか。

 ちょっと記憶が定かではないんですけれども、あれは成田監督のご指示ではなく、確か僕から相談をして、彰1人だけ時間の流れが違う、みたいなことをさせてもらったと記憶しています。「あの人何なんだろう、ちょっと変なんだけど」という違和感こそ、百合との恋につながっていく重要な要素になると思ったので……。

 あとは、特攻隊員なのに、どこをどう叩いてもトゲトゲしたいやらしさや攻撃性が一切出てこない育ちのよさみたいなチグハグさというか、違和感も意識しました。

――妖怪というよりは、むしろ観音様や菩薩のイメージですね。

 「妖怪」と言ったのは、まるで人間らしさがないという意味で、「妖怪らしく」演じたかったわけではないので(笑)。

 ただ、「何もしていない」のと、「何もしていない演技をする」のって、全然違うじゃないですか。僕が目指したのは、無駄なアウトプットを極力しないことだったんですが、これは「水上、演技してないじゃないか」と思われるのと紙一重なので、ある程度ここは批判も覚悟しています。

 派手な言動やアクションがなく、まるで何もしていないように見えるかもしれませんが、演技において実はかなり意欲的に挑戦したつもりなので、そこも見て、感じていただけたらうれしいです。

初舞台から7年。成長を感じる瞬間は?

――今作は福原遥さんとのダブル主演ですが、ふたりで相談しながら役作りもされたとお聞きしました。

 今作は、戦争を扱った作品であることへの責任や覚悟も含めて、「これじゃちょっと伝わらないよね」とか、「これもいいけどもっとこういうふうにしたほうが作品の言いたいことが伝わるよね」みたいな話し合いを福原さんとたくさんさせていただきました。

 福原さんは、経歴では遙かに先輩ですけれども、自分の役と同じように僕の役のことも考え、同じ熱量で作品に向き合ってくださったので、本当にありがたかったです。というか、福原さんのそういう姿勢があったからこそ、僕もそれに応えたいと思えるような、すごくいい関係が構築できたと思っています。

 以前ご一緒させていただいたときは、僕が緊張し過ぎて時候の挨拶くらいしかできなかったので、今回がっつりご一緒できてうれしかったです。

――タイトルにもある百合の丘でのおふたりのシーンが非常に印象的です。ご自身でやりきった感はありますか?

 あのシーンは、スタッフのみなさんの人海戦術で斜面に百合を植えて撮影されたものです。CG合成も駆使していますが、スタッフのみなさんは相当大変だったと思います。斜面を本当によく生かした撮影というか。あの斜面があったからこそあのシーンができたわけで、スタッフの方々の努力には感謝です。

 あと、これは役者が持ち続ける永遠の呪いみたいな部分でもあると思いますが、芝居には正解がないので、どんなにやっても反省は出ます。

 毎シーン、すべてのセリフ、演技においてもちろん全力を尽くしていますし、そのときそのときで僕のベストを尽くしていますが、それでも見てみたら、やっぱり惜しかったな……と思うところは、たくさんあります。これはもう、役者の永遠のテーマですね。

――高校生の時に特攻隊員を演じた自分と比べて、大きな成長や進化は感じましたか?

 そうですね。役者になったばかりの頃は、セリフを噛まないようにしようとか、次に誰が何言うのかちゃんと覚えておかなきゃ、というようなことばかり意識していましたが、その頃に比べると、少しは「こういうふうに自分を見せていきたい」という欲が出せるようになってきたように思うので、そこは成長したかなあと思います。

 あとは、演技に関しては、今自分がどういうふうになっているのかを見ようとする、その目を持てるようになれたのではないかと思っています。これは、プロとして当たり前なんですけどね……。

水上恒司(みずかみ・こうし)

1999年5月12日生まれ、福岡県出身。主な映画出演作は『弥生、三月-君を愛した30年-』(20/監督:遊川和彦)、『望み』(20/監督:堤幸彦)、『ドクター・デスの遺産 -BLACK FILE-』(20/監督:深川栄洋)、『新解釈・三国志』(20/監督:福田雄一)、『そして、バトンは渡された』(21/監督:前田哲)、『死刑にいたる病』(22/監督:白石和彌)、『OUT』(23/監督:品川ヒロシ)など。TVドラマ出演作に「中学聖日記」(18/TBS)、「MIU404」(20/TBS)、「ウチの娘は、彼氏が出来ない!!」(21/NTV)、NHK大河ドラマ「青天を衝け」(21)、「真夏のシンデレラ」(23/CX)、NHK連続テレビ小説「ブギウギ」(23)などがある。

映画『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』
12月8日(金)全国ロードショー

 親や学校、すべてにイライラして不満ばかりの高校生の百合(福原遥)。ある日、進路をめぐって母親の幸恵(中嶋朋子)とぶつかり家出をし、近所の防空壕跡に逃げ込むが、朝目が覚めるとそこは1945年の6月……戦時中の日本だった。偶然通りかかった彰(水上恒司)に助けられ、軍の指定食堂に連れていかれる百合。そこで女将のツル(松坂慶子)や勤労学生の千代(出口夏希)、石丸(伊藤健太郎)、板倉(嶋﨑斗亜)、寺岡(上川周作)、加藤(小野塚勇人)たちと出会い、日々を過ごす中で、彰に何度も助けられ、その誠実さや優しさにどんどん惹かれていく。だが彰は特攻隊員で、ほどなく命がけで戦地に飛ぶ運命だった。

主演:福原遥、水上恒司
出演:伊藤健太郎、嶋﨑斗亜、上川周作、小野塚勇人、出口夏希、坪倉由幸、津田寛治、天寿光希、中嶋朋子/松坂慶子
主題歌:「想望」福山雅治(アミューズ/ Polydor Records)
原作:汐見夏衛『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』(スターツ出版文庫)
監督:成田洋一
脚本:山浦雅大 成田洋一
配給:松竹
https://movies.shochiku.co.jp/ano-hana-movie/

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2023.12.04(月)
取材・文=相澤洋美
写真=榎本麻美