どこの国の人はどうだ、というようなステレオタイプなイメージをもとに小説を書きたくはない。それでも、実際に会った人や経験からインスピレーションを受けて書くのは楽しい。
 次に書く三作目の小説は一九六九年のアメリカが舞台だ。登場人物たちがどんな生活をしているのか、どんな映画を観てどんな音楽を聴いているのか、そんなことを想像すると、なかなか面白い。何といっても、この人たちは六九年以降の世界を知らないのだ。
 僕はクラシックロックが好きなので、当時に戻ってジミ・ヘンドリックスやグレイトフル・デッドを生で聴くことができたらどんなに素晴らしいだろうと想像したことは一度や二度ではない。だが同時に、七〇年代初頭の衝撃は、想像するだけでも恐ろしい。なんといってもジミ・ヘンドリックス、ジャニス・ジョプリン、ジム・モリソンの三人が一年以内に亡くなってしまうのだ。
 これから僕は作家として町を一つ創り上げ、そしてそのすべてを焼き尽くすつもりだ。まだ僕の頭の中にしか存在しないその町の住人たちは、一体どんなドラマを見せてくれるだろうか。僕にもまだ分からないが、きっと面白い物語になるだろう。読者の皆さんに、彼らの声を届けられる日が楽しみだ。

須藤古都離(すどう・ことり)
 1987年、神奈川県生まれ。青山学院大学卒業。2022年「ゴリラ裁判の日」で第64回メフィスト賞を受賞しデビュー。23年7月、第2作『無限の月』刊行。

 

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2023.11.15(水)