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悪口は儀礼的なコミュニケーションの風穴を開ける

TaiTan 僕、とにかく口が悪いって結構言われるんです。でもやっぱり周啓君との関係性においては、それが成立しているから、差別的な発言や倫理的にアウトな発言をしなければ基本的に僕らは良しとしているんですが、品田さんは悪意の吐き出しの許容量みたいなものって決めてますか。テキストだったらここまでとか、ラジオだったらこのあたりにとどめておこうみたいなのは。

品田 そうですね。作ったものに受け取り手が到達するのにコストがかかるようなものでは、割と言いすぎてもいいかなと感じているところがあります。

TaiTan ほう。もうちょっと詳しく教えてください。

品田 私の日記は有料コンテンツなので、読みにいくまでの障壁が高めだから、拡散しづらいよね、と。誤解の余地がある分、豊かなことが言いやすい。ラジオも今まではそうだったはずなのですが、今は文字起こしして広げちゃう人がいるから難しくなってきてますよね。

TaiTan 品田さんは、メルマガなどで、人の生々しい感情や悪意のようなものに興味あるってときどきおっしゃってますよね。それって何なんでしょう。すごくシンプルに聞くと、なんで人って悪口を面白いと思うんでしょうか。なぜ笑えてしまうんでしょうね。

品田 コミュニケーションというものは、どんな内容を含んだものであっても、ある側面では儀礼的なものに過ぎないですよね。茶番感みたいなものを、お互いに暗黙のうちに了解し合っているというか。悪口はそこにちょっとした穴をあけるような痛快さがあるからなのかな、と。

TaiTan なるほど。僕が冒頭で言った「居心地の悪さ」っていうのは、まさに品田さんが言ってる形式の話なのかも。形式として「そうである」とされていることを、お互いあたかも本当のコミュニケーションのように交換し合うという、その茶番性。普通に社会人として基本のマナーは守るけれど、やっぱそれって面白くないよなって感じています。なんか奥までいききらない社交辞令的なものというか。品田さんにもそういう感覚ってありますか?

品田 具体的に、どういう感覚ですか?

TaiTan 世の中の多くを構成しているであろう、基本的な会話を破ってみたくなるという感覚です。

品田 あります、あります。それをやってしまうこと自体には、公共的な意義があるとかは思ってなくって、癖というか、我慢できないんですよね。自己正当化するのであれば、誰かしらが何かしらそういうことを言わない世の中は、嫌だよなっていうのは感じています。ただ、わざと悪いことを言って会話を破ることを必要としていない人もいますよね。なんなら、そっちの方が多数派で、こちらは少数派のはず。だから、遠慮がちに悪いことを言います(笑)。

TaiTan すごくそのバランス感は信用できるというか、僕と感覚が似ているなと感じているポイントです。「コンプライアンスなんてくそくらえだ」というセンスにも、「うっ……」となってしまいますよね。悪口を言うことに対しての恥じらいとか、後ろめたさは感じていたいという。

品田 めちゃくちゃわかります。アナーキーに悪口を言いまくるというのは、もはやポジションとしてあるものになってしまっていますよね。それはちょっと違うなっていう。もっと「オルタナティブ」でありたいという思い上がりがあって(笑)。

TaiTan 本当にそこですよね。ポリコレ的なものに対するアンチのスタンスでそういう発言をした時っていうのは、基本的にコレクトネスに対してのリアクションでしかないから。なんていうか、その磁場から逃れられないというか。

 ザ・サードプレイスみたいに、オルタナティブな、アクションとしての悪口的なものの面白さを楽しみたいって感覚がすごいあるんですよね。

品田 そう、そう!

TaiTan 話を少し戻しますが、そういった悪口的な話はネットラジオなどでは発信するのが難しくなってきてますか、やっぱり。

品田 そうですね。YouTubeはハイパーリンクなんか貼られちゃうともうダメですよね。X(旧:Twitter)でもわりとおとなしめです。どっちの方向に倒れても、変に広がりはしないだろうという目算を立てた上で書いてます。あとは、有料記事にする。ワールドワイドウェブ感がなくなってきて、ちょっと寂しいですが。

TaiTan 僕は、Podcastって開かれていたながら閉じているメディアだから好きなんですよ。YouTubeはアルゴリズムで、どんどん広がっていってしまいます。それに比べ、僕の番組はSpotifyだけでしかやっていないので、Spotifyのプラットフォームにいかないと聞けない。中で何が行われているかは、聞かないと誰もわからない。そういうところがPodcastはまだ信用できるなって。

品田 なんとなく文句を言いたいだけの人って、音を20分以上聴くとかできないですからね。

TaiTan (笑)。

2023.11.17(金)
文=高田真莉絵
撮影=平松市聖