2021年、完全リモートのZOOM演劇で大きな注目を集めた「劇団ノーミーツ」の劇作家・演出家である小御門優一郎さん。架空のラジオ番組のイベントを題材に、物語と現実が交錯する“舞台演劇番組イベント生配信ドラマ”『あの夜であえたら』という新たな挑戦を控える彼に話を聞いた。今作で観られる新しい試みとは? そしてその先に目指すものとは?
「今、自分が観る意味がある」新しい形を模索して
──今日は朝8時半からミーティング続きと聞きました。
ここ数日、予定されていた『あの夜であえたら』の稽古を数日間オフにして、脚本を大きく変えていたんです。修正版の台本をアップしたのが昨日の朝。今日の稽古再開に向けて演出を練り直すために、さっきまでミーティングしていました。
──そんな時に、ありがとうございます。たしか前作『あの夜を覚えてる』のときも、本番直前で脚本を大きく変更されたというお話がありましたね。
前回は本番1週間前でした。こうしてみると悪い慣習が続いているように見えてしまいますが(笑)。ただ、前回『あの夜を覚えてる』は配信のみでしたけど、今回は配信に加えて客席でもみなさんに観ていただく形なので。
今回は架空のラジオ番組のイベントを題材にしたお話なんですが、リハーサルの時間から始まり、ステージ上はずっと物語が進行しているんです。同時に楽屋をはじめとする裏のシーンもあり、客席の皆さんはその様子を映像で観ることになるので、その組み合わせが難しくて。ひとつ変えると連鎖的に変わっていくことになるので、前回よりは早い段階で大きく変えることになりました。
──稽古をやってみて、見えてきたことがあるわけですね。
はい。稽古にこぎつけるまでは机上のパズルに熱中していたというか、「ここで一旦カメラが外に出て……」といった、形式的に成立することのほうに気をとられていて。いざ実際にキャストに台本を読んでもらったら、バックステージものとしてのドタバタの楽しさはあるけれど、内容があまり整っていないかもしれないと気づいて、焦って直させてもらったという経緯です。
──前回は映像上でなんとかすればよかったものが、今回は客席のみなさんに舞台上で起こっていることが全て見えてしまうから、パズルも飛躍的に難解になっていきますよね。
そうなんです。でも、お客様を入れるということはそういうことだよなと改めて思いました。
前作『あの夜を覚えてる』を振り返って
──前作『あの夜を覚えてる』自体、ニッポン放送の社屋全体を使った“生配信舞台演劇ドラマ”という前代未聞の試みとして大きな注目を集めましたが、改めて前作を振り返って、どんなことを得たと感じていますか?
僕が主宰しているノーミーツという団体は、コロナ禍が始まってからスタートしました。最初はフルリモートの演劇からはじまり、この時代でなければ作られなかったものを作っていますし、観てくれている方も「時代の目撃者になる」というような……、お客様にも役割を担ってもらう作品をこれまでやってきました。
『あの夜を覚えてる』という作品は、その集大成でもあったと思います。あの作品を観てくださった方は、観客であると同時に物語の中の架空のラジオ番組のリスナー役でもあった。実際にメールをあの作品世界の中に投げて、架空のパーソナリティがそれに反応する、お客さんとの対話を成す、という。
──そうですね。
今はNetflixをはじめとして莫大な予算をかけたハイクオリティな映像作品がたくさん作られていますけど、そんな中で「今」観ていることに意味がある、「自分が」観ていることに意味がある、と感じさせる作品ができた。それは、ノーミーツで積み重ねてきた先にあるものだったなと思いますし、リスナーと双方向で作るラジオというものにもガチッとハマったな、という感覚もありました。
この作品を経験したことで、作品が開いているもの、観る側とやる側がやり取りできるものを、今後も僕とノーミーツの強みとして作っていきたいと改めて思えました。
2023.10.12(木)
文=釣木文恵
撮影=榎本麻美