ヒップホップユニット「Dos Monos」のラッパーであるTaiTanさんとバンド「MONO NO AWARE」のフロントマン・玉置周啓さんによる大人気Podcast番組『奇奇怪怪』の書籍版第二弾が刊行。異形の対話本の刊行を祝して、TaiTanさんと作家の品田遊さんが「居心地の悪さ」「恋愛」「トリックスター」「落語」などについて、自由におしゃべり!
前編では、「居心地の悪さ」や、個人の人格とは別にキャラクターを作る、人格脱出論について語ったお二人。後篇では、生理的な気持ちの良さについて盛り上がりました。
「本音」ってありがたいもの?
TaiTan 最近『奇奇怪怪』の中でも話したんですが、本音ブームなるものが来ているように感じます。楽屋裏の話とか、本当はこんなこと考えているんだよねという「本音」をみんなありがたがって聞いているというか。品田さんはこの傾向を感じていますか? これにもちょっと僕は居心地悪く感じているんですが。
品田 プロデューサーブームみたいなものですよね。コンテンツを受け取る側が、作り手目線になっているという。
TaiTan 本音らしさを小出しにされているにすぎないのに、何の溜飲が下がっているんだろうっていう(笑)。
品田 『奇奇怪怪』でM-1の話もされてましたよね。ネタではなく、そこに到るまでの苦節みたいなものが評価につながっているのではないかって。
TaiTan そうですね。同じ文脈で「庵野秀明の作品はNHKの庵野秀明のドキュメンタリーに負けてしまっているのではないか」って、よく言われていますよね。フィクションがもうノンフィクションになってしまっているという。
品田 庵野秀明という人の変さが、もうエヴァに勝ってしまっている(笑)。宮崎駿もわりとそうですよね。
TaiTan この、裏側を知りたいという欲望には、どういった心象風景があるんでしょう。
品田 昔は物理的に届かなかったというのもありますよね。昭和のアイドルなんかステージに立っている姿が全てでしたけど、今はインスタなどのSNSで何でも見れちゃう。なんなら裏アカまでわかっているアイドルもいます。そういうのが当たり前だから、あらゆるペルソナを統合した「本人」がもうネットを介して見れてしまうという。
TaiTan そうですよね。僕の中で基本的にもう表と裏がニコイチセットみたいになっている。あらゆるスターがそうなっていったとき、やっぱちょっと心が冷めていく感覚があります。今、一番面白い人って誰なんでしょう。
『奇奇怪怪』でも話したんですけど、それって新庄剛志なのかなって。
品田 (笑)。
TaiTan トリックスターですよね。どこからどこまで本当なのか、まったくわからない。今となっては野球の監督に専念してますが、ちょっと前まであらゆるCMに出るし、バラエティー番組にも出るし。発言を聞いていると、像をひとつも結ばせないぞという気負いすら感じるというか。
SNSであらゆるものが可視化されている時代において、新庄は昭和の豪傑みたいな都市伝説的な存在になっているように感じます。なんて言うんですかね、イメージをあえて乱反射させているというか。こういう人をもっと見てみたい。本音ブームとかそういったものの先を待ち望んでいます。
品田 実存がつかみきれない存在がいてほしいという願いはありますよね。新庄もそうだし、叶姉妹とか。数年前に第二次叶姉妹ブーム的なのがあったときも、すべてが嘘すぎるあの世界に一種の祈りを感じるんです。
TaiTan めちゃくちゃわかります。やっぱとんでもない虚構を見せて欲しいっていう気持ちってやっぱりありますよね。
品田 うん、努力とか見たくないじゃないですか。新庄の努力なんて見たくない(笑)。
2023.12.30(土)
文=高田真莉絵
撮影=平松市聖