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なぜ恋愛やスポーツに興味があることが前提にされるのか

TaiTan 『ハケンアニメ!』という映画の話をしてもいいですか? 吉岡里帆さんが演じる女性監督の奮闘劇を描いているんですが、恋愛以外の要素が物語を推進していくんです。吉岡里帆さんが主演だから、いかにもそういう展開になってもおかしくないのに、絶対そういうのを拒絶していて、すごくよかったんです。

 僕は結婚もしているし、恋愛をしてきたこともあるけれど、恋愛的なものにあまり乗れないタイプで。冷めるとかではなく、なぜそこまで恋愛に興味を持つのだろうかと不思議で。

品田 私も恋愛要素が入っているからいいよねとはあまり思わないです。むしろない方が楽だと思っちゃってる側でもあります。最近ではSNSでもそういった意見をよく見かけるようになりましたよね。

TaiTan 増えてますよね。それこそK-POPとかがわかりやすい例だと思います。K-POPって今世の中のマーケットとしてかなり大きいので、世の中を反映している文化だと思うんですけど。どんどん恋愛の曲が減っていっている。基本的にはセルフに向かっていますよね、自分はどうありたいのかって話になってきているのを感じます。

 恋愛に限らず、「スポーツに興味ある前提なんなん?」問題も番組で提起したことあるんですけど、品田さんにとってこのあたりって何かありますか?

品田 確かに恋愛とスポーツは二大巨頭ですよね。

TaiTan 負け惜しみとかではなく、このレースに乗れないこと自体が世の中からパージされていくような感覚があります。一方、自分の中でルサンチマン的な心が発動するのも、嫌悪感があって、とても居心地が悪い。

品田 恋愛を全面に押し出されてないからいいって言われている映画を見ると、今度は逆にセルフケアをエンパワーメントするような姿勢を感じて。それはそれでそこまで興味がない(笑)。

TaTan 少し話が脱線しますが、「Podcastをなんでやっているんですか?」って人から聞かれた時に、音楽の状態を目指したいって答えているんです。人と人が丁々発止で話しているときって音の発生だから、別にそこに意味がなくてもリズムがよかったら、聞いている側は気持ちよいと思うはずなんですよね。でも最近はとにかく誰かに対するエンパワーメント文脈がある種、ふりかけ的にかかっていないと、世の中に出れなすぎるというか。

 意味のないもの、見ていて、聴いていて気持ちのよいものがもっとあってもいいんじゃないかって思います。

品田 『奇奇怪怪』の書籍の巻末に掲載されている藤岡拓太郎さんの漫画みたいに全く意味のない会話が理想?

TaiTan そうですね。拓太郎さんは昔から天才だと思っている方です。

 本当におこがましいんですが、立川談志師匠がたどりついた「イリュージョン」という理論があって。それは僕が説明できないくらい複雑な理論なんですけど、無秩序に並んでいる単語の組み合わせの中に超次元的な何かを見出すみたいな内容で。究極的にはそこにたどり着くんじゃないかなってすごく思いますね。

品田 形式の方が内容を克服してしまうと。

 それに対して恋愛的なテーマばかりが中心化されていると、作品を通じて「あなたは市民なんですよ」って言われている気がします。リテラシーのリトマス紙を当てられて「これがわかったら大丈夫ですよ」とジャッジされているというか。

TaiTan 品田さんが生理的にきもちよいと感じるポイントってどこですか? 僕は音楽をやっているから、基本的に『奇奇怪怪』などのPodcastも体の運動だと思ってるんですよね。意味でリードするよりも、生理的なリズムでリードしたいという気持ちがどちらかというと強いんです。

品田 私は、リズム的にも不感症なところがある気がしていて。どちらかというホラー的なモチーフが好きですね。滞りなく成立している現実に対してのパラレルなあり方がホラーではよく示されていると感じています。意味の不協和音的な部分を気持ちよいと感じますね。

Taitan なるほど! 品田さんがおっしゃっている意味の不協和音と、さっき僕が話した単語が無秩序に並べられる時の面白さを人と共有したいというのは似ている気がします。不気味なんだけれど気持ちよいというか。

品田 全く意味のない不協和音的なものに映画で出合うと、おもしろいより先に気持ちいいがきちゃいますね。

TaiTan 今日は、ずっと気持ちのよさについてお話していた気がします。プリミティブな気持ちのよさをどうやって獲得していくか。それは市民としての気持ちのよさではなく。

品田 今はいろんな文脈を知ってしまっているので、プリミティブな気持ちのよさに到達するのはなかなか難しい面もありますよね。だから、居心地の悪さの原因って案外自分自身の中にも埋まっているのかもしれません。

TaiTan

Dos Monosのラッパーとしてアメリカのレーベル・Deathbomb Arcと契約。「MONO NO AWARE」のフロントマン・玉置周啓さんとの、Podcast番組『奇奇怪怪明』や、TBSラジオ『脳盗』が人気。「Forbes JAPAN 30 UNDER 30 2023」を受賞。


品田遊

株式会社バーグハンバーグバーグのライター。ダ・ヴィンチ・恐山としても作家活動を行う。著書に『キリンに雷が落ちてどうする 少し考える日々』』(朝日新聞出版)など。
X(旧:Twitter) @shinadayu

奇奇怪怪

定価 2,750円(税込)
石原書房
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2023.12.30(土)
文=高田真莉絵
撮影=平松市聖