この記事の連載

ラッパーは、人格の脱出?

品田 『奇奇怪怪明』は、かなり配慮して話されている印象もあります。TaiTanさんと世代が近いからわかるんですよね。体内にインターネットがすでに入っている人の喋り方だなって(笑)。

TaiTan やっぱ俺らってネットがもう入っちゃってるんですよね。品田さんも、ネット血中濃度が最高峰の「ダ・ヴィンチ・恐山」ってペンネームをお持ちですよね。

品田 川島なお美みたいにワインでできてますじゃないけど、インターネットでできてますみたいな。「奇奇怪怪」を聴く前に、「Dos Monos」の曲を聴いたときは、かっこいいと思うと同時に、こわーってビビってました。。

TaiTan え、こわい?(笑)

品田 見た目がいかついから。私まだ感性が中学生なので、曲の中でセックスとか言ってると、「え、いまなんて言いました?」と思ってドキッとしちゃって。でもネットっぽい感性も同居しているのが面白い。

TaiTan (笑)。「Dos Monos」は100年後の人が聴いても、なんかいいなと思うようなものを作りたい感覚があるけど、Podcastって同時代性が強いから、社会の影響を受けちゃう。僕がいかに面白いところまでいきたいんだと思ってやっていたとしても、自然と自分の中にあるインターネット的な自主規制をしてしまうのかもしれません。

品田 言語活動におけるストッパーと、音楽の中の言葉のストッパーを両立させることは考えるんですか?

TaiTan 音楽の言語、リリックの方が自由であって欲しいですよね。Podcastだと純粋に言葉のみを提供しているというよりは、僕の人格そのものを提供している感じですが、音楽活動のときは、覆面性というかキャラクター性に変わってきます。

 人間ってどんだけいきったスタイルを選択していようが、人間として暮らしている以上「こんにちは」とか挨拶をせざるを得ない。これってすごいことで。どんな悪いやつでも儀礼的な言葉を言うんですよね。暮らすというものが持つあまりに強い力に、個は組み伏せられてしまう。何を喋っても「でもお前も、こんにちはとか言ってるんだろう」ってところで、同レベルまで引きずりおろされてしまう。だから治外法権としてのヒップホップというか。他に何があるんだろうって最近考えてます。

 品田さんも名義を色々持っていますよね。

品田 キャラクターを作るって意味では、同じかもしれないです。

TaiTan 何か言われた際、全人格で受け止めちゃうと心がやられちゃうから、「これはTaiTanというやつがやられているだけであって、飯塚(TaiTanさんの本名)は無傷だ」と思うと楽でいられるというか。キャラクターを作るのは、処世術の一つかもしれないですね。

TaiTan

Dos Monosのラッパーとしてアメリカのレーベル・Deathbomb Arcと契約。「MONO NO AWARE」のフロントマン・玉置周啓さんとの、Podcast番組『奇奇怪怪明』や、TBSラジオ『脳盗』が人気。「Forbes JAPAN 30 UNDER 30 2023」を受賞。


品田遊

株式会社バーグハンバーグバーグのライター。ダ・ヴィンチ・恐山としても作家活動を行う。著書に『キリンに雷が落ちてどうする 少し考える日々』』(朝日新聞出版)など。
X(旧:Twitter) @shinadayu

奇奇怪怪

定価 2,750円(税込)
石原書房
» この書籍を購入する(Amazonへリンク)

次の話を読むラッパー・TaiTanと作家・品田遊が語り合う。「プリミティブな気持ちよさをどうやって獲得する?」

2023.11.17(金)
文=高田真莉絵
撮影=平松市聖