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 坂本龍一さんや元爆風スランプのファンキー末吉さんなど、様々なアーティストとコラボレーションし、ドラマ『JIN-仁-Main Title』の曲でも知られる二胡奏者のウェイウェイ・ウーさん。本来は座って演奏する伝統的な楽器の二胡を、立って演奏するという独自の演奏方法も生み出すなど、二胡の新しい可能性を切り開いてきた現代二胡のパイオニア的存在です。独自のスタイルを確立した経緯についてお聞きしました。(全2回の前篇。後篇を読む


――5歳からヴァイオリンを始めたそうですが、二胡も同時に始められたのですか?

 二胡を始めたのは15歳のときです。私は、西洋音楽が禁じられていた文化大革命の真っ最中に生まれました。そして文化大革命終結後に上海音楽学院付属小学校のヴァイオリン科に第一期生として入学し、その後、上海戯劇学院で二胡とヴァイオリンを専攻しました。

 でも15歳の頃、メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲の第二楽章を弾いた時に、なぜかふと東洋的な響きを感じて、「この楽曲を二胡の音色で奏でたい」と思ってしまったんです。

 将来はヴァイオリニストになると決めていましたが、一方で、町中で誰もが気軽に弾いていた二胡もずっと身近な存在でした。弾いたことはありませんでしたが、「二胡もヴァイオリンも同じ弦楽器だし、あんなに誰もが気軽に弾いている楽器だから、自分にも簡単に弾けるだろう」と思ったんですよ。でも、弾いてみたら意外に難しくて……。

 ヴァイオリンは弦が4本ですが、二胡は2本しかありません。それに、ヴァイオリンは演奏中に弓を弦から離すことができますが、弦と弦の間に弓を挟んで音を鳴らす二胡は、弓を弦から離すことができません。ヴァイオリンとこんなに違う楽器は、ちゃんと勉強しないと弾けるようにならないと気がついて、二胡とヴァイオリンのどちらも学べる上海戯劇学院に入学して、二胡を学び始めました。

――西洋音楽と伝統音楽の両方を学ぶ方は多かったのですか?

 いいえ。当時も今も、西洋音楽と伝統音楽の両方をやっている人は、ほとんどいないと思います。学校でも、二胡の副科目としてピアノを選ぶ人はたまにいましたが、ヴァイオリンの副科目で二胡を選ぶような人は、私以外には、まずいなかったと思います。

 二胡とヴァイオリンは、そもそも使う譜面も違うんですよ。ヴァイオリンは五線譜ですが、二胡は音階を数字で表した数字譜なので、慣れるまでかなり苦労しました。

 でも慣れてきたら、作曲家だった父を真似て子どもの頃から自分でも曲を作ったりしていたのを思い出し、ヴァイオリンの曲を二胡用にアレンジして弾いたり、オリジナルの曲を弾いたりして、楽しめるようになりました。

2023.10.26(木)
文=相澤洋美
撮影=鈴木七絵