いよいよ終盤を迎える朝ドラ「ばけばけ」。主人公トキ(髙石あかり)と夫・ヘブン(トミー・バストウ)のモデルとなった小泉セツ、八雲夫妻の歩みにも様々なことがありました。
1896年、八雲一家は東京に居を移します。セツの協力を得て執筆も進み、青梅出身の女中・花とその父・宗八から聞いた奥多摩地方の伝説などを取り入れた『怪談』の執筆も始まりました。
夫妻のひ孫で小泉八雲記念館館長を務める小泉凡さんが2人を語った『セツと八雲』(朝日新書)より一部を紹介します。(全5回の3回目/初回「熊本で八雲が魅了された“近代日本の著名人”」を読む)
八雲のために奇談集を364冊集めたセツ
八雲は日本では妖怪がポピュラーであることに目をつけました。江戸時代以降、人々の心にゆとりができ、妖怪を恐れる、というよりは楽しむようになったからだろう、それゆえに怪談を集めた本もたくさん出版されてきたのだろう、と考えたのかもしれません。八雲のこんな心情に寄り添うセツが古書店から集めた奇談集は、364冊に及びました。
さて、雪女については、浅草で買ってきてくれた『狂歌百物語』という三冊本を探ると、これを題材にした狂歌が11首も載っていました。狂歌とは江戸時代に盛んになった、日常のことを題材に俗語を用い、洒落(しゃれ)や風刺を利かせた、こっけいな短歌です。
宗八親子が語った伝説は「雪女」として、こんな風にリメイクされます。
武蔵の国の木こり、茂作(もさく)と巳之吉(みのきち)は吹雪の夕方、小屋で寒さをしのぐことにしました。眠り込んだ巳之吉が目をさますと、白ずくめの女が茂作の顔に真っ白い煙のような息を吹きかけています。女は、
「お前はまだ若く、あわれになったので許してやる。しかし今夜見たことをしゃべったら命はないと思うがよい」
と告げて小屋を出てゆきました。茂作は冷たくなって死んでいました。
翌年の冬、巳之吉は背が高くほっそりした美しい娘に出会います。江戸に向かう途中のお雪という、その娘にしばらく休んでいったらどうかと言って、母と暮らす家につれて帰ります。自然の成り行きでふたりは夫婦になり、10人の子どもを授かります。
ある夜、巳之吉があの吹雪の小屋での出来事を語り出すと、
「それは私だよ。しゃべったら命はないと言ったはずだ。でも子どもたちのことを思うと殺すことはできない。この子たちを苦しめることがあったら、相応の目にあわせるから」
そして、とけて輝く白い霧となって消えてしまいました。その後、お雪の姿を見ることはありませんでした。
