オペラのレパートリーの中でも、テノール歌手が体力と精神力の限りを尽くして「挑戦する」作品がある。歌手によって「限界ぎりぎり作品」は異なるかも知れないが、ワーグナーの『トリスタンとイゾルデ』のトリスタンと、オッフェンバックの『ホフマン物語』の主人公ホフマンは、過酷なロール・ベスト5に入るのではないだろうか。特に後者は、劇中で3人の女性を愛し、失恋を重ねるという悲劇のドラマを、最初から最後まで非常に強い声で歌わなければならない。

 誰もが軽々と歌えるわけではない『ホフマン物語』を、最も得意な役のひとつとして持つイタリア系アメリカ人テノール、レオナルド・カパルボ。「テノール界の新王子」として世界中の歌劇場から引っ張りだこの彼が、3月に新国立劇場で18番のホフマンを歌う。「稽古場にアラン・ドロンのようなかっこいいテノールが現れた!」の噂を聞き、早速取材に駆け付けた。

ホフマンの「愛されたい」という欲求を理解する

――カパルボさんは2014年にリヨン歌劇場のゲストとして初来日し、一日だけ『ホフマン物語』を歌いました。日本はそれ以来ですか?

 そうです。2020年に新国立劇場で予定されていた公演がコロナ禍で延期となり、やっと東京に戻ってくることが出来ました。初めてこの役を歌ったのは12年前くらいですが、確かにテノール歌手にとってはハードな役だと思います。役作りに関しても、全く違う3人の女性たちとの恋物語を演じるわけですから、そのたびに感情的な表現や動きを微妙に変えて、最終的に一人の人間が現れるようにする必要があります。過去の彼と未来の彼という、一人の人間の異なるヴァージョンを見せていくわけです。芯の部分をぶれずにすることが大切です。

――ホフマンという人物の本質とは?

 彼は憂鬱気質で、アーティストでありミュージシャンであり、クリエイターで作家でもあった人物ですが、根底に最も強くあったのは「愛されたい」という想いです。愛する以上に愛されたいという強い欲求を持っているので、それゆえに他人に辛く当たって、どういう反応が返ってくるかを見たりするのです。今日のような暖かい日に、日差しを肌で感じるような、そういう愛を強く感じたいと思っている。

 オペラの中には死ぬまで歌を歌ってしまう女性が出てきますが、彼女は死ぬほど音楽が好きで、ホフマンはその音楽の愛に嫉妬します。本当の意味で二人の間に沈黙が訪れた瞬間に、それを愛と感じるわけです。ベネツィアのシーンでは、皆がギャンブルや酒宴に耽っていて、情熱とエネルギーをもった娼婦が現れてホフマンは恋におちます。みんなは「すぐに恋に落ちる」と彼を馬鹿にしますが、その裏にあるのは彼の「愛されたい」という気持ちなのです。

2023.03.17(金)
文=小田島久恵
撮影=末永裕樹