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オリジナルメンバーが今集まるというのは“新たな挑戦”

──原点に立ち戻ってはいるけど、これまでいろんな音楽を作ってきた経験がある上での“新たな挑戦”という感覚なんでしょうか?

岸田 そうですね。一緒にやってない時間、別軸で、別のやり方で成長してきたと思うので。同窓会的なものじゃなくて、新しいものを作るために集まったという感じです。年も取ってますから、若さと勢いでなんとかすることはできないけど、その代わり、今まで培ってきた経験や技術、考え方がある。再び会った僕らがカードを出し合うっていうのはある意味挑戦というか、新しい人と会って曲を作るよりも、難易度は高いかもしれないですね。

佐藤征史(B, Vo) 森さんは“瞬発力ドラマー”なんですよね。何気なく始まったセッションに対して「自分はこういこう!」みたいな道をパッと示してくれることが、その曲が出来上がっていく原動力になる。それが合わない時は全然合わないんですけど(笑)、合った時の原動力はすごいっていうのを自分たちは知っているから、それをもう一度やってみたいというのはありましたね。

 数年に1回ぐらい、森さんも含めて、いろんなドラマーさんと短い日数で曲作りをすることがあるんですけど、だいたいそこでできたものって、アイデアだけで終わってたんですよ。でも、今回はドキュメンタリー映画を撮るということもあって、ある程度の時間をかけることができて。最初はアルバムを作ると決まっていたわけじゃなかったんですけど、曲作りを進める中で、映画とは別軸で「自分たちのアルバムを1枚作ろう」と思えたんです。やり始めるまでは、自分たちが胸を張って世に出せるアルバムができるかどうかなんて、わからなかったので。

 昔は三振かホームランかみたいなやり方やった気がするんです。でも今回は、バッターでいうと、もうちょっとアベレージヒッター寄りというか。うまくヒットを打てたし、長打もある。スイングして、バットの芯に当たる確率がちょっと高まった、みたいな感じかもしれないです。

くるり3人のそれぞれの旅の思い出・佐藤さん

森さんと一緒で、ロンドン郊外でのレコーディングが初めての海外レコーディングだったんですけど、その当時、大村達身さんというギタリストと一緒にやっていて。岸田さんと大村さんが同じ部屋で、僕は森さんと同じ部屋で生活をしてたんですけど、その毎晩の森さんのイビキはよく覚えています(笑)。あと、ロンドンには2005年にもアルバム(6thアルバム『NIKKI』)のレコーディングで行ってるんですけど、その時の日差しの“色”が思い出深いです。緯度が違うからか、日本と全然ちがうんですよ。日が暮れていくと、青がどんどん深くなっていくというか……そういう光の移り変わりが強く印象に残っていますね。

2023.10.12(木)
文=石橋果奈
写真=深野未季